平成19年(ワ)第188号 損害賠償請求事件

原 告  蒔 田 直 子 外3名

被 告  国 外1名

 

原告第5準備書面

 

2008年10月3日

 

京都地方裁判所第2民事部合議係 御中

 

 

 

原告ら訴訟代理人弁護士   小 野 誠 之  ? 

 

同         堀   和 幸  ? 

 

同         池 田 良 太  ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            目  次

 

第1 はじめに(P3

第2 被告らの不法行為1−不必要かつ違法な「抽選」により、原告らを本件タウンミーティングから排除したこと(P3

第3 不法行為1による権利侵害或いは違法(違憲)性

 1 国家公務員倫理法違反(P4

2 本件タウンミーティングに参加する「期待権」或いは参加する機会を違法に奪われない利益の侵害(P5

3 憲法14条違反(P5

4 憲法19条違反(P6

5 憲法21条違反 (P6)

第4 被告らの不法行為2−個人情報の収集・利用・提供など (P9)

第5 被告らの不法行為2による権利侵害或いは違法(違憲)性

 1 条例違反 (P9)

2 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律違反 (P11)

3 憲法13条違反−プライバシー侵害 (P12)

4 憲法13条違反−名誉毀損 (P15)

5 憲法13条違反−人格権侵害 (P15)

6 憲法19条違反 (P15)

第6 被告国の主張に対する反論 (P16)

 

 

 

 

 

 

 

第1 はじめに

1 本件は、原告蒔田及び原告朴が、不正かつ違法な抽選によって意図的に本件

タウンミーティングから排除され、また、その巻き添えを食う形で原告松田及び原告松本も本件タウンミーティングから排除されたため(但し、原告松本は意図的に排除された可能性も高い)、これによって原告らが蒙った精神的損害の賠償を求めるものであり、本件の本質は、主催者である被告国と被告京都市が、市民参加の場であるタウンミーティングから市民である原告らを意図的に排除したということにある。

2 そして、原告蒔田及び原告朴を本件タウンミーティングから意図的に排除す

るためになされた本件「抽選」が不正なものであったことについては原被告らの間に争いはなく、この様な違法な抽選により本件タウンミーティングから排除された原告らに対して損害賠償(慰藉料)が支払われるべきこと(すなわち、原告らの請求が認容されるべきこと)は明らかといわねばならない。

3 しかるに、被告京都市は、その責任を被告国に押しつけ、また、被告国は、

本件「抽選」そのものの不正の事実を「抽選の必要性の有無の問題」にすり替え、原告らの本訴請求を免れようとしている。

4 以上のとおり、本書面においては、市民参加の場であるタウンミーティング

から市民である原告らを排除したことが本件の本質であることを確認し、その手段としての原告らの個人情報の違法な使用と本件「抽選」そのものの違法を要約し、原告らに損害賠償がなされるべき理由をまとめるものである。


第2 被告らの不法行為1−不必要かつ違法な「抽選」により、原告らを本件タウンミーティングから排除したこと

1 被告京都市は、被告国から参加応募者名簿を入手し、この中に原告蒔田及び

原告朴の名前を見つけるや、同原告らの個人情報を提供し、同原告らを排除するよう要請するなどして、同原告らを本件タウンミーティングから排除した。

  また、被告京都市は、一般公募とは別枠で多数の参加者を動員して一般応募

者の参加人数を制限し、或いは、「市教委ダミー」などを用いて応募者を多数に見せかけるなどして「抽選」の必要性を作出し、内閣府をして違法な「抽選」を行わしめ、原告らを本件タウンミーティングから排除したものである。

2 他方、被告国は、被告京都市の意向を受け、原告蒔田及び原告朴を本件タウ

ンミーティングから排除するため、同原告らの申込み番号の末尾数字は全て落選とすることとして、その「落選」のために敢えて、不必要かつ違法な抽選を行い、原告蒔田及び原告朴のみならず、原告松田及び原告松本(但し、原告松本も不意図的に排除された可能性が高い)を含む多数のものを巻き込んで「落選」させ、もって、本件タウンミーティングから排除したものである(なお、抽選とは作為や主観の入る余地のない方法でなされるものをいうところ、被告国の主張を前提にしても、末尾番号「7」は伊佐敷の主観のみによって決定されたというのであるから、末尾番号5、9のみならず、末尾番号「7」についても、適法な「抽選」といえないことは明らかである)。

 3 以上のとおり、被告らは共謀して、必要かつ違法な抽選を行い、もって原告らを本件タウンミーティングから排除したものである。

 

第3 不法行為1による権利侵害或いは違法(違憲)性

 1 国家公務員倫理法違反

  @ 被告国の前記行為は、国家公務員倫理法に違反し、違法である。すなわち、国家公務員倫理法3条1項は「職員は、国民全体の奉仕者であり、国民の一部に対してのみの奉仕者ではないことを自覚し、職務上知り得た情報について国民の一部に対してのみ有利な取扱いをする等国民に対し不当な差別的取扱いをしてはならず、常に公正な職務の執行に当たらなければならない。」と規定しているところ、被告国は、市教委から得た情報を元にして、原告蒔田及び朴を意図的に本件タウンミーティングから排除し(その結果、原告松田及び松本までもが排除される)という、不当な差別的取扱いをしており、同法3条1項に違反することは明かである。

A また、多数の応募がないのに抽選が必要であるかのように工作し、抽選に

よって参加者を決めると公に約しておきながら、実際には適法な抽選を行わなかった行為は、およそ公正な職務執行とは言えず、同法3条1項に違反することも明らかである。

 

 2 本件タウンミーティングに参加する「期待権」或いは参加する機会を違法に奪われない利益の侵害

  @ 本件では、国がいったんタウンミーティングの開催を決定し、参加者を募集したのであるから、応募した者には、本件タウンミーティングに参加し、他の参加者の意見を聴いたり自ら発言したりすることに対する「期待権」或いは「本件タウンミーティングに参加する機会を不当に奪われない利益」があったというべきであり、また、かかる利益が国賠法上保護に値することは明らかである(国賠法上保護される利益は、法的保護に値する利益であれば足り、いわゆる「権利」である必要はなく、憲法上保障される権利である必要もないことは自明の理である)。

  A また、被告国は、応募者多数の場合は抽選により参加者を決定すると公に約していたのであるから、仮に真に抽選が必要な場合であっても、原告らには「公正(適法)な抽選を受ける利益」があったというべきであり、また、かかる利益も国賠法上保護に値することは明らかである。

  B しかるに、被告らは、不必要かつ違法な「抽選」によって、原告らを本件タウンミーティングから排除し、もって原告らの前記「期待権」、「利益」などを侵害したことは明らかというべきである。

 

3 憲法14条違反

@ 憲法14条1項は、公権力が不合理な差別を行うことを禁止しており(平

等原則)、合理的な理由もないのに不平等な取扱いをすることは、この平等原則に違反すると同時に、不平等な取扱いを受けた国民の平等権を侵害することとなる。

A 本件において、被告らは本件タウンミーティングに応募した者を平等に扱

うべきこと(他方、原告らはタウンミーティングに参加する機会を他の応募者と平等に与えられるべきこと)は当然であった。

B しかるに、被告らは、何ら合理的理由もなく、原告らを本件タウンミーテ

ィングから排除して、他の応募者と平等に扱わず、もって憲法14条の平等原則に違反すると共に、憲法14条で保障される平等権を侵害したことは明らかである。

 

4 憲法19条違反

@ 憲法19条は、思想・良心の自由を保障しているが、その具体的な保障内

容として、各人の有する思想・良心を理由として不利益な扱いをすることも禁止されている。

A 本件において、被告らは、団体の性質・活動内容或いは著作の題名等から

原告蒔田の思想・良心を推知するために、原告蒔田の所属団体や著作を無断で調査し、現在の教育行政に批判的な原告蒔田の思想・良心を理由として、原告蒔田を本件タウンミーティングから排除するという不利益な取扱いをしたものであるから、憲法19条で保障される思想・良心の自由を侵害したことは明らかである。

B また、同じく、被告らは、団体の性質・活動内容或いは著作の題名等から

原告朴の思想・良心を推知するために、原告朴の所属団体や著作を無断で調査し、民族差別を訴える本に名前が出ているとか民団の支団長であるとかいったことから推知される原告朴の思想・良心を理由として、原告朴を本件タウンミーティングから排除するという不利益な取扱いをしたものであるから、憲法19条で保障される思想・良心の自由を侵害したことは明らかである。

 

5 憲法21条違反

  @ 憲法21条は、集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障しているが、ここにいう集会の自由とは、自ら集会を開催する自由に限るものではなく、集会に参加する自由も含み、また、集会の自由には、公権力に対し集会のための施設の提供を請求できる権利をも含むといべきである。

  A ちなみに、最高裁昭和59年12月18日判決・刑集38巻12号3026頁の伊藤裁判官の補足意見は、いわゆるパブリック・フォーラム論を展開したものであるが、次のように述べている。

    「ある主張や意見を社会に伝達する自由を保障する場合に、その表現の場を確保することが重要な意味をもつている。特に表現の自由の行使が行動を伴うときには表現のための物理的な場所が必要となつてくる。この場所が提供されないときには、多くの意見は受け手に伝達することができないといつてもよい。一般公衆が自由に出入りできる場所は、それぞれその本来の利用目的を備えているが、それは同時に、表現のための場として役立つことが少なくない。道路、公園、広場などは、その例である。これを『パブリツク・フオーラム』と呼ぶことができよう。このパブリツク・フオーラムが表現の場所として用いられるときには、所有権や、本来の利用目的のための管理権に基づく制約を受けざるをえないとしても、その機能にかんがみ、表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要があると考えられる。」

B ところで、このパブリック・フォーラム論の主眼が、表現の自由の場を保

障すること、すなわち、表現の自由の機会を保障することにあることはいうまでもなく、従って、パブリック・フォーラムとは道路、公園などの公共の物理的施設に限られるものではなく、表現の自由の場を広く包含した概念であるというべきである。そうすると、タウンミーティングは国が国民に対して国政に関する意見を表明する場を提供するものであり、一種のパブリックフォーラムであるから、パブリック・フォーラムであるタウンミーティングの利用・参加を不当に制約した場合には、憲法21条で保障された表現の自由、集会の自由の侵害となるというべきである。

C 本件においては、被告らは、国政に対する市民の意見を表明する場である

タウンミーティングというパブリック・フォーラムを設定しておきながら(すなわち、表現の自由・集会の自由の機会を保障しておきながら)、抽選等の公正な方法によることなく、その他正当な理由もないのに、原告らのタウンミーティングに参加して意見表明する場を不当に奪ったのであるから、憲法21条で保障される、原告らの表現の自由・集会の自由を侵害したことは明らかである。

D また、国や地方公共団体が「公の施設の使用の拒否を決するに当たり、集

会の目的や集会を主催する団体の性格そのものを理由として、使用を許可せず、あるいは不当に差別的取り扱うことは許されない」(最高裁平成7年3月7日判決・民集49巻3号687頁)のは当然であり、この趣旨は、国や地方公共団体が主催する集会に参加する者の選別についても妥当する。従って、国がタウンミーティング参加者を選別するに当たり、参加応募者がタウンミーティングに参加した場合に表明するであろう意見内容や参加応募者が所属する団体の性格そのものを理由として、参加させず或いは不当に差別的に取り扱うことは許されないというべきである。

E 本件において、被告らは、原告蒔田及び原告朴の所属する団体の性格その

ものを理由として、原告蒔田及び原告朴がタウンミーティングに参加させず、不当に差別的に取り扱かったのであるから、この点からも、憲法21条で保障された表現の自由・集会の自由を侵害したことは明らかである。

F さらに、憲法21条1項は、いわゆる「知る権利」も保障しているところ、

タウンミーティングは、他の参加者(政府関係者を含む)の意見を聞くことにより、国の施策に対する知見・理解を深める重要な機会であるから、タウンミーティングに参加する機会を不当に奪うことは、憲法21条で保障される知る権利に対する侵害になることも明らかである。

G 本件において、被告らは、不必要かつ違法な「抽選」によって、原告松本

らが本件タウンミーティングに参加して、閣僚や他の参加者の意見を聞いて国政に対する知見・理解を深める重要な機会を奪ったのであるから、憲法21条で保障される、原告らの知る権利を侵害したことは明らかである。

 

 

 

第4 被告らの不法行為2−個人情報の収集・利用・提供など

 1 被告京都市は、内閣府に応募者名簿を送るよう要請し、送られてきた名簿をチェックし、そこに原告蒔田及び原告朴の名前を見つけるや、これを排除するため、原告蒔田及び原告朴のについての個人情報を無断で収集・利用・提供し、また、両名について虚偽の情報を報告して、両名を本件タウンミーティングに参加させないよう内閣府に要請したものである。

 2 被告国は、参加応募者名簿を市教委に送り、「問題のある人物」をチェックさせ、市教委からの報告に基づき、事実を確認することもなく、原告蒔田及び朴の両名を排除するために、当該情報を利用したものである。

 

第5 被告らの不法行為2による権利侵害或いは違法(違憲)性

 1 条例違反

   被告京都市の前記行為は、京都市個人情報保護条例にことごとく違反し、違法である。具体的には以下のとおりである。

@ 京都市個人情報保護条例は、3条2項で「実施機関(教育委員会を含む。

同条例2条。)の職員又は職員であった者は、職務上知り得た個人情報をみだりに他人に知らせ、又は不当な目的に使用してはならない。」と規定する。

また、同条例6条1項は「実施機関は、個人情報を収集しようとすると

きは、個人情報を取り扱う事務の目的を明確にし、当該目的を達成するために必要な範囲内で、適法かつ公正な手段により収集しなければならない。」と規定し、同条2項は「実施機関は、個人情報を収集するときは、本人から収集しなければならない。」と規定し、さらに同条3項は「実施機関は、思想、信条及び宗教に関する個人情報、人種、民族その他社会的差別の原因となるおそれがあると認められる社会的身分に関する個人情報並びに病歴、遺伝子に関する情報その他身体的特質に関する個人情報で個人の権利利益を侵害するおそれがあると認められるものを収集してはならない。」と規定する。

また、同条例8条は、「実施機関は、個人情報取扱事務の目的を超えて、

個人情報を当該実施機関内で利用し、又は当該実施機関以外のものに提供してはならない。」と規定する。

A これを本件についてみると、まず、市教委は原告蒔田及び原告朴の氏名、

所属団体、婚姻関係、著書、過去における市教委に対する取組み等の個人情報を収集するに際し、その目的を明確にしておらず、同条例6条1項に違反する。

また、情報収集の方法は、必ずしも明らかではないものの、一部の情報

は「職員の通常の話の中で出てきた」(松浦証言54頁)というように、職員同士の世間話から収集したという極めていい加減なものであって、およそ公正な手段とはいえず、この点でも同条例6条1項に違反する。

B つぎに、市教委は、内閣府に対して本件タウンミーティングの参加応募

者名簿を送るよう要請して、内閣府から応募者名簿を入手しているのであって、原告蒔田及び原告朴の情報を本人から収集していない。また、原告蒔田及び原告朴の婚姻関係、著書、所属団体等についても本人から情報を収集していない。そして、本件では、同条例6条2項の例外に該当する事情はない。したがって、市教委の情報収集行為は、同条例6条2項に違反する。

C また、市教委が収集した情報は、原告蒔田については所属する団体及びその活動内容であって原告蒔田の思想・信条に関する情報であり、他方、原告朴については原告朴が民団の支団長であるという思想・信条に関する情報かつ民族に関する情報であり、かつ、在日の人々にとっては人物評価に直結する極めてデリケートな情報である。したがって、市教委の当該情報収集行為は、同条例6条3項に違反する。

D さらに、市教委は、本件タウンミーティングから原告蒔田及び原告朴を排除するという不当な目的のために収集した情報を利用しており、同条例8条1項前段に違反する。

E それのみならず、市教委は、収集した情報を不当な目的のために内閣府に提供しており、同条例8条1項後段にも違反する。

この点、被告京都市は、「京都市教育委員会が内閣府に伝えた情報は、共催者である京都市教育委員会が事業の円滑な運営のために主催者である内閣府に提供すべき事実であり・・・」(被告京都市答弁書7頁)と主張するが、本件は同条例8条1項但書が規定する例外に該当しないので、個人情報を提供した時点で同条例違反になることは明白である。また、仮に同項但書の例外に該当する余地があるとすれば、同項但書5号の場合しか考えられないが、その場合には審議会の意見を聴かない限り情報提供をできず(同条例8条3項、50条)、かつ、同条例9条に定める措置を執らなければならないところ、本件においてそのような手続・措置はとられていない。したがって、いずれにしても市教委の内閣府に対する情報提供は同条例に違反するのであり、本件タウンミーティングが市教委と内閣府の共催であることは上記結論に何ら影響を及ぼさない。よって、被告京都市の主張には理由がない。

また、京都市と内閣府の共催が決定したのは2005年11月7日であるところ、京都市は同年10月5日には応募者リストの送付を内閣府に要請しているのであり、さらに、遅くとも同年10月下旬には原告らの個人情報を内閣府に伝えているのである。したがって、「京都市教育委員会が内閣府に伝えた情報は、共催者である京都市教育委員会が事業の円滑な運営のために主催者である内閣府に提供すべき事実であり・・・」(被告京都市答弁書7頁)との被告京都市の主張は、そもそもその前提を欠いている。      

 

2 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律違反

  @ 被告国の前記行為は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律にことごとく違反し、違法である。すなわち、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律3条1項は「行政機関(内閣府を含む。同法2条1項2号。)は、個人情報を保有するに当たっては、法令の定める所掌事務を遂行するため必要な場合に限り、かつ、その利用の目的をできる限り特定しなければならない。」と規定し、同法3条2項は、「行政機関は、前項の規定により特定された利用の目的(以下「利用目的」という。)の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を保有してはならない。」と規定する。

また、同法7条は「個人情報の取扱いに従事する行政機関の職員若しくは

職員であった者又は前条第二項の受託業務に従事している者若しくは従事していた者は、その業務に関して知り得た個人情報の内容をみだりに他人に知らせ、又は不当な目的に利用してはならない。」と規定する。

  A これを本件についてみると、まず、内閣府は原告蒔田及び原告朴の個人情報を保有するに際し、その目的を特定しておらず、同法3条1項に違反する。

B また、内閣府は、原告蒔田及び原告朴の個人情報を、同人らの思想・信条、

民族を理由として本件タウンミーティングから排除する目的で利用しており、当該目的が不当であることは明白であるから、同法7条に違反する。

C さらに、内閣府の保有する情報が適法に取得されたものでないときは、こ

れを利用してはならない(同法36条1項1号参照)が、上記1のとおり原告蒔田及び原告朴に関する情報は市教委から内閣府に対して違法に提供されたものであって、このことは内閣府も当然に認識しつつ情報を取得したものであるから、情報の取得過程に違法がある。

従って、原告蒔田及び原告朴の情報を利用した内閣府の行為は違法である。

D なお、同法5条は「行政機関の長は、利用目的の達成に必要な範囲内で、

保有個人情報が過去又は現在の事実と合致するよう努めなければならない。」として、情報の正確性の確保を図るべきことを規定しているところ、内閣府が保有していた原告蒔田及び原告朴に関する情報はいずれも全くのデタラメであり、内閣府において情報の正確性を確保しようと努めた形跡もないから、同法5条違反が認められる。

 

3 憲法13条違反−プライバシー侵害

  @ 憲法13条が保障する幸福追求権には、人格権、名誉権、プライバシー権等が含まれるところ、本件において被告らは、原告蒔田及び原告朴の所属団体、婚姻関係、著書等のプライバシーに関わる情報を正当な理由もなく収集・利用し、もって憲法13条で保障されるプライバシー権を侵害したというべきである。

  A すなわち、「市教委が特定の者(市教委又は政府に対して批判的な意見を持つ者、日本国籍を有さない者など)を本件タウンミーティングから排除する目的で、個人の思想・信条を推知せしめる事実(政治的意見を表明する団体に所属している事実、過去の政治活動など)や国籍に関する事実等の個人情報を収集し、これを内閣府に伝え(本件タウンミーティングから排除するよう要請し)た行為」及び「被告国が、特定の者(市教委又は政府に対して批判的な意見を持つ者、民族差別を訴える本に名前が出ている者など)を本件タウンミーティングから排除する目的で、個人の思想・信条を推知せしめる事実(政治的意見を表明する団体に所属している事実、過去の政治活動など)や国籍に関する事実等の個人情報を収集・利用するした行為」は、いずれも憲法13条で保障されるプライバシー権を侵害したものであり、憲法に違反する行為であること明かである(そして、上位規範である憲法に違反する以上、国家賠償法上も当然に違法となる)。

  B この様に、市教委の情報収集・利用・提供行為は原告蒔田及び原告朴のプライバシーを侵害する違法な行為であるが、この点については、早稲田大学が江沢民の講演会に申し込んだ学生の個人情報を警察に開示したことが不法行為に当たるかが争われた事案の最高裁判決が参考になる。

最高裁平成15年9月12日判決・民集57巻8号973頁

「(1) 本件個人情報は、早稲田大学が重要な外国国賓講演会への出席希望者をあらかじめ把握するため、学生に提供を求めたものであるところ、学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また、本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、【要旨1】本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである

(2) このようなプライバシーに係る情報は、取扱い方によっては、

個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要がある。本件講演会の主催者として参加者を募る際に上告人らの本件個人情報を収集した早稲田大学は、上告人らの意思に基づかずにみだりにこれを他者に開示することは許されないというべきであるところ、【要旨2】同大学が本件個人情報を警察に開示することをあらかじめ明示した上で本件講演会参加希望者に本件名簿へ記入させるなどして開示について承諾を求めることは容易であったものと考えられ、それが困難であった特別の事情がうかがわれない本件においては、本件個人情報を開示することについて上告人らの同意を得る手続を執ることなく、上告人らに無断で本件個人情報を警察に開示した同大学の行為は、上告人らが任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり、上告人らのプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。原判決の説示する本件個人情報の秘匿性の程度、開示による具体的な不利益の不存在、開示の目的の正当性と必要性などの事情は、上記結論を左右するに足りない。」

  C 本件においては、内閣府に提供された情報が単純な情報のみならず思想・信条や民族に関わる情報であること、これらの情報は原告らが自ら提供した情報ではなく、市教委が原告らに無断で収集した情報であること、内閣府への情報提供によりタウンミーティングから排除されるという具体的な不利益が存在すること、情報収集の目的が原告らをタウンミーティングから排除するという不当・違法なものであること、内閣府への情報提供も同様の目的でなされており、情報提供の目的に正当性がないこと、内閣府からの要請もないのに市教委が自ら進んで情報を提供していること等、上記最高裁判例の事案と比較しても遙かにプライバシー侵害の程度が大きく、また、違法性の程度も大きいというべきである。

  D よって、市教委の情報収集・利用・提供行為が原告蒔田及び原告朴のプライバシーを侵害する違法な行為であることは明らかである。

4 憲法13条違反−名誉毀損

  @ 市教委が内閣府に対して、原告蒔田に関する虚偽の情報を伝えた行為は、名誉毀損の不法行為が成立する。

  A すなわち、原告蒔田が「(京都市教育委員会の過去のイベントにおいて)会場内でプラカードをあげたり、指名されなくても大声を発するなどしたため会場が騒然として混乱したため、警察まで動員して退場させた」との虚偽の情報を内閣府に伝えたのであるが、内閣府に伝えるということは、内閣府の不特定多数の職員に対して伝えることに他ならない。

  B そして、これによって原告蒔田が粗暴な人物であるかのような印象を与え、もって原告蒔田の社会的評価を低下させたことは明らかというべきである。

 

5 憲法13条違反−人格権侵害

@ 市教委が内閣府に対して、原告朴に関する虚偽の情報を伝えた行為は、人

格権侵害の不法行為が成立する。

A すなわち、市教委は内閣府に対して、原告朴が「民族差別を訴える本に名

前が出ている」或いは「在日本大韓民国民団の支団長」との虚偽の情報を伝えているところ、在日の人々にとっては「民団」に所属しているか否かは人物評価に大きく影響する事柄であって、誤った情報が伝われば、当該人物に対する評価を一変させることになる。

B 従って、市教委が原告朴について虚偽の情報を内閣府に伝えた行為は、原

告朴の人格を著しく侵害する不法行為というべきである。

 

6 憲法19条違反

  @ 憲法19条は思想・良心の自由を保障しているが、その具体的な保障内容として、国が各人の意思とは無関係にその思想・良心について調査したり、何らかの方法・手段で直接・間接に推知すること、また、各人の有する思想・良心を理由として不利益な扱いをすることも禁止される。

  A 本件において、被告らは、団体の性質・活動内容或いは著作の題名等から原告蒔田の思想・良心を推知するために、原告蒔田の所属団体や著作を無断で調査したものであるから、憲法19条で保障される思想・良心の自由を侵害したことは明らかというべきである。

  B 更に、被告らは、団体の性質・活動内容或いは著作の題名等から原告朴の思想・良心を推知するために、原告朴の所属団体や著作を無断で調査しものであるから、憲法19条で保障される思想・良心の自由を侵害したことは明らかというべきである。

 

第6 被告国の主張に対する反論

1 被告国は、「被告らは、個々の国民に対し、タウンミーティングを開催しな

ければならない義務や開催したタウンミーティングに出席させる義務を負うものではない」から、原告らの主張する諸権利はそもそも保障されていないと主張する(被告国答弁書18頁、被告国第1準備書面5頁ないし7頁など)。

  @ しかし、仮に、国や地方公共団体にはタウンミーティングを開催しなければならない義務(或いは開催したタウンミーティングに市民を出席させる義務)がなかったとしても、ひとたびタウンミーティングの開催を決定し、かつ、一般市民から参加者を募集した以上、応募した市民に対して参加の機会を平等に保障すべき義務があることは当然である(換言すれば、国にはタウンミーティングを開催するかしないかを決定する自由はあるが、ひとたびタウンミーティングを開催して参加者を募集した以上、正当な理由もなく応募者の参加を拒否する自由はないのである)。

  A 従って、思想信条や国籍を理由としてタウンミーティングに参加させなかったり、不公正な方法によってタウンミーティングに参加する機会を奪ったりした場合には、憲法上の諸権利や国賠法上保護される利益の侵害の問題が生じることは明らかである。

  B なお、被告国の論法からすると、例えば地方公共団体が必要以上の個数の公民館を建設・運営している場合において、かかる必要を超える公民館については地方公共団体は個々の住民に対して公民館を建設・運営する義務を負わず、また、公民館を利用させる義務も負わないから、住民には公民館利用に関連する諸権利はそもそも保障されておらず、その結果、思想信条を理由とする使用不許可処分、集会の目的や集会を主催する団体の性格そのものを理由とする使用不許可処分、国籍を理由とする使用不許可処分をしても、憲法上保障される諸権利や国賠法上保護される利益の侵害を生じる余地はない、ということになるが、かかる結論が到底支持され得ないことは明かであり、この点からも、被告国の主張に理由がないことは明らかである。

 

2 また、被告国は、「『期待権』なるものは、諸権利を実現できたかもしれない可能性という不確実な利益である。そのような利益自体、被告国及び被告京都市が同タウンミーティングを開催し、その参加者を公募したことによって初めて生じ得たものであることをも考慮すれば、そのような不確実な利益が失われたことをもって、国賠法上の違法性を基礎づける『権利侵害』と解することはできない。」と主張する(被告国第1準備書面7頁など)。

  @ しかし、実現するかどうか不確実だからといって、直ちに国賠法上保護される利益から除外されることにはならない。ことに本件では、被告の主張を前提にしても70パーセントの確率でタウンミーティングに参加できたのであるから、原告らの期待が実現する相当程度の可能性が存在していたのであるから、実現するかどうか不確実であることを理由に国賠法上の違法性を否定するのは失当である。

  A そして、原告らが本件タウンミーティングに参加して、自らの表現の自由等を実現したいと期待し、或いは、子供に親としての姿を見せたいと期待し、或いは、子供にも自分の意見を述べて欲しいと期待した、その期待は十分に法的保護に値するというべきであり、被告国の主張には理由がないことは明らかである。

 

3 つぎに、当該期待権は国と京都市がタウンミーティングを開催し参加者を公募したことによって初めて生じたものだから、これを失わせても国賠法上の違法性を基礎付ける「権利侵害」にはならないと主張する。

  @ 被告の主張は、本件期待権が後国家的権利であることを理由として国賠法上の違法性を基礎付ける権利侵害がないとするものであるが、権利の性質が後国家的であることは国賠法上の権利侵害の有無とは全く関係がない。このことは、受益権、社会権についても国家賠償が認められていることからも明らかである。よって、被告国の主張には理由がない。

  A なお、被告の前記主張は、憲法が国民主権を採用し(憲法前文、1条)、国民に政治に参加する権利を保障している(憲法15条)ことを軽視し、憲法の趣旨にそってタウンミーティングという政治参加の場がようやく用意されたことに対する国民の期待がいかに大きいかを全く理解せず、かかる期待は国が国民に授けてやったものだから法的保護に値しないと言い放っているのに等しいのである。

  B そして、被告がかかる主張を臆面もなくできるのは、結局、直接民主制の実現であるとか、国民との対話といったタウンミーティングの趣旨は建前に過ぎず、本音は、タウンミーティングを国民の意見を聴くポーズに利用しているだけであることを如実に表している(仮に、本音でもタウンミーティングは国民の政治参加の場であると思っていながら、政治参加に対する国民の期待は法的保護に値しないと主張しているのであれば、もはや救いようがない)。

 

4 被告国は、「原告らにタウンミーティングに参加する機会が保障されているものではなく、国賠法上保護されるべき権利が認められない以上、タウンミーティングの参加者の抽選において不適切な取扱いがなされたとしても、そのことをもって憲法14条に違反するとか、国賠法上、金銭をもって償うべき損害が原告に生じたと解することはできない。」と主張する(被告国第3準備書面4頁ないし5頁)。

  @ 被告国の当該主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、タウンミーティングに参加する機会が個々の国民に保障されていないことを理由として、本件において国賠法上保護されるべき権利が認められないと主張しているのであれば、明らかな失当である。けだし、被告国の主張は、個々の国民に権利・機会が保障されない場合には、国がいかなる扱いをしても憲法14条違反や国賠法上の違法の問題は生じないと主張しているものであって、論理に飛躍があるだけでなく、その結論も明らかに不合理だからである。

  A また、被告国は、国賠法上保護されるべき「権利」性を強調するが、そもそも国賠法上保護されるためには「利益」で足りるのであって、「権利」である必要はなく、もとより、憲法上保障される権利である必要もないのである。

  B また、仮にタウンミーティングに参加する権利が個々の国民に保障されていないとしても、ひとたびタウンミーティングの開催を決定して参加者を募集したのであれば、応募者を平等に扱うべきは当然であり、不合理な取扱いは許されない。換言すれば、応募者には平等に取り扱われる権利、或いは不当な取扱いをされない権利があるのである。

  C 従って、応募者に対して不平等な扱いがなされれば当然に憲法14条違反の問題が生じるし、思想信条や所属団体を理由として不利益な扱いをすれば憲法19条、21条違反の問題が生じるのは当然というべきであり、憲法違反とまではいえない場合であっても国賠法上保護される利益を侵害する場合には、国賠法上金銭をもって償うべき損害が生じることになるのである。よって、被告国の主張には理由がない。

 

以 上

 

inserted by FC2 system