平成18年(行ウ)第28号 損害賠償請求事件

原告 北上田 毅外22名

被告 京都市長

 

第7準備書面

平成20年7月4日

 

京都地方裁判所 第3民事部 合議C係 御中

 

                 原告訴訟代理人弁護士 折 田 泰 宏

                       同    坂 和   優

                       同    上 瀧 浩 子

第1 本書面の目的

  本書面は、原告のこれまでの主張の整理をすることを目的とするものである。

 

第2 本案前の主張

 1 門川に対する請求が監査前置主義を満たすこと

   門川については、門川自身が、違法な事業を行い、これに基づく違法・不当な公金支出をしたことを具体的に指摘しており損害賠償の相手方としている。そして、訴訟の原告により訴訟の目的である地方公共団体が有する実体法上の請求権を履行する義務があると主張されていれば、怠る事実に係る相手方として被告適格を有するのである。

 

 2 本件で問題としている事実は、財務会計上の行為であること

 

   被告は、大阪地裁平成17年9月8日判決において、住民訴訟は全ての違法行為を禁止する目的ではなく、財務会計上の行為のみが、地方自治法242条の2第1項第4号の違法となるとしていることから、本件で主張している本件財務会計上の行為も不適法とする。

  しかし、後に検討するように、本件では各財務会計上の行為自体にも違法が存すると主張しているのであり、大阪地裁平成17年9月8日判決とは場面が異なる。

   また、教育委員会という教育行政を行う機関が自ら教育内容に対して「不当な支配」を行うことは教育基本法上では厳しく制約されているのであるから、本件事業が「不当な支配」である以上、本件事業は、教育委員会の事務とはいえないのであり、この点でも被告の主張には根拠がない。

 

第3 本案に関する争点1−本件事業自体の違法性について

1 本件事業は、憲法13条、26条及び改定前教育基本法10条2項に反す

  被告は、昭和51年5月21日最高裁大法廷判決は、教育の目的について

は、何ら述べていないように同判決を曲解しているが、同判決では「憲法26条の規定に関して「子どもに対する基礎的教育である普通教育の絶対的必要性にかんがみ、親に対し、その子女に普通教育を受けさせる義務を課し、かつ、その費用を国において負担すべきことを宣言したものであるが、この規定の背後には、国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること、特に、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在していると考えられる。換言すれば、子どもの教育は、教育を施す者の支配的権能ではなく、何よりもまず、子どもの学習をする権利に対応し、その充足をはかり得る立場にある者の責務に属するものとしてとらえられているのである。」とし、「子供らの教育は、前述のように、専ら子どもの利益のために行われるべきものであり、本来的には右の関係者らがその目的の下に一致協力して行うべきもの」としている。従って、子どもの教育の目的は、子どもの学習権の充足にあり、国家や親の支配的権能ではないことを明確に判断しているのである。

改定前教育基本法1条は、この憲法上の目的に適合するように「教育は、

人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身とともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」としているのである。

被告は、平成18年12月22日施行の「改定」教育基本法2条5項にお

いて、「伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛するとともに」という教育の目的が新たに掲げられたことをもって、本件ジュニア検定が正当化できるかのような主張をしているが、原告らが問題にしている本件ジュニア検定の実施時期はこれより以前であり、仮に、「改定」教育基本法下で、本件以降のジュニア検定が正当化できるとしても本件ジュニア検定が正当化できるものではないことは当然である。

また、改定前学校教育法の第18条2号では、「郷土及び国家の現状と伝

統について、正しい理解に導き」とあるが、正しい理解とは、客観的な理解をいい、その理解の上で、これらの「伝統」について肯定的な評価を下すか否定的な評価を下すかは、まさに、子ども自身に任されているところである。それらを踏み越えて、「伝統」についての肯定的評価を前提として、これを「次代の子どもたちにしっかりと伝えていくものとする。」という目標は、子どもの価値観に踏み込むものであり、国家(又は行政)の支配的権能の現れであり、改定前教育基本法の下ではとうてい是認できない。

 

 被告は、本件ジュニア検定が教育条件の整備にあたると強弁するが、条件整備とは合理的な教育制度及び施設を確立することをいい、教育内容についての権能を含まないことは常識に属する事柄である。従って、教育委員会という教育行政に携わる機関が策定した本件テキストを使用して、本件ジュニア検定の受検を強制することは教育内容に直接に加担する行為であり、このような本件事業が「教育の条件整備」にあたらないことは当然である。

 

 2 本件事業は、特定の政策の押しつけであること

   本件事業は、京都創生事業の一環として行われたものであり特定の政策を子どもに押しつけるものであることは、これまで述べたとおりであり、改定前教育基本法10条に反する。

 

 3 本件事業が意思決定手続を経ていないこと(京都市公文書管理規則6条違反)

  被告は、「推進プロジェクトを『実施主体』とする方針があったが、

テキスト作成や検定の実施にあたり、推進プロジェクトの事務局としての京都市教育委員会の比重が高まり、結果として京都市教育委員会が実施主体となったものである。」としている。(被告第12準備書面 10ページ)

しかし、「歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定」推進プロジェ

クト設置要綱(甲第10号証の2)第1条においては、「京都ジュニア検定を推進していくために、『歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定』推進プロジェクトを置く。」と明記している。また、市長記者会見資料では(甲7号証)実施主体として推進プロジェクトが明記されているのである。

したがって、本件事業は、誰から見ても推進プロジェクトが実施主体であ

る。実施主体が途中で変更したのであれば、それについての決定が必要である。しかし、その決定をした文書は存在しない。

そして、被告は、本件訴訟の当初は、教育委員会生涯学習部は、推進プロ

ジェクトの事務局であると明記していたのである(被告準備書面1 3ページ)。

実施主体という極めて基本的事項について、被告の主張にの主張に変遷が

あることは、明確な意思決定がないまま本件事業を進めてきたことの証左である。

被告は、「(本件事業は)文書ではないが市教委による意思決定は行われ

ている。」としているが、これは、既に指摘したように京都市公文書管理規則第6条に反する。また、実施主体の変更があったのであれば、設置要綱で実施主体が明らかである以上、これを文書により決定する必要があるがそのような文書は存在しない。

また、被告は、検定実施の準備段階であれば、意思決定が不要であると記

載しているが、本件テキスト作成は本件事業実施の準備段階ではなく、本件事業そのものである。これは、本件テキストが「公式テキストブック」と呼称され(甲8号証)また、市長記者会見資料では、<検定の流れイメージ図>の中に「テキスト等により学習」、とされていることからも明かである。

従って、本件テキスト作成は、本件事業の不可欠の部分をなしており、こ

れについて「準備段階である」とする被告の主張は詭弁である。

以上から、本件事業についてはその開始段階でも文書による決定は存しな

いし、その内容の変更も文書での決定はなされていない。これは、京都市公文書管理規則6条に違反する。 

 

 4 本件各財務会計上の行為は地方財政法4条1項に反すること

被告は、福岡高裁平成12年10月26日判決は、福岡高裁平成15年3

月7日の判決により変更されたというが、そのような事実はない。

福岡高裁平成12年10月26日判決は、「行政目的達成のために、合理

的必要性がある場合には、その裁量により、職員を出張させることができるが、その目的や態様に照らして著しく妥当性を欠くときには、右裁量権の行使に逸脱または濫用があるものとして違法となるものと解するのが相当である。」とし、その必要性の判断にあたっては、当該出張の職務行為との関連性のみならず、当該職務行為にとって当該出張が必要最小限度のものであるかとの観点に置いても検討されるべきである。」とし、「合理的な必要性」の検討に置いて、より具体的な判断基準を述べているものである。そして、福岡高裁平成15年3月7日の判決では、「裁量権を逸脱または濫用し、必要性のない財産を合理的な理由なく購入し」と、福岡高裁平成12年10月26日判決の基準とはほぼ同一の基準であるが、福岡高裁平成12年10月26日判決は、この必要性の基準についてより詳細な判断基準を示しているものである。

そして、本件各支出は、合理的必要性を欠き、濫用的出費にあたるのであ

るから地方財政法4条1項に反するのである。

 

 5 本件事業たる先行行為の違法が後行行為たる各財務会計上の行為に承継されること

(1) 以上、本件事業は、第1項ないし第5項に述べたとおり、違憲・違法

なものであるが、この違法性は、後行行為たる各財務会計上の行為に承継される。

最高裁昭和60年9月12日判決では、「地方自治法242条の2の

住民訴訟の対象が、普通公共団体の執行機関又は職員の違法な財務会計上の行為又は怠る事実に限られることは、同条の規定に照らして明らかであるが、右の行為が違法となるのは、単にそれ自体が直接法令に違反するばあいだけではなくその原因となる行為が法令に違反して許されない場合の財務会計上の行為もまた、違法となる。」としている。

しかし、いかなる場合に先行行為の違法が後行行為に承継されるかに

ついて、一般的基準を述べる確立した判例は存しない。

この点、松山地判昭和63年11月2日(判例時報1295号27ペ

ージ)では、公金支出の原因となる非財務公開計上の行為に、重大かつ明白な違法がある場合には、支出自体の固有の違法性が認められないときでも差止が認められるとした。

また、最判平成4年12月15日判決は、後行行為を行った当該職員

の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものでなければならないとしている。

これらの判決は、先行行為と財務会計上の行為とが別個の機関で行わ

れることを前提としており、後行行為を自ら是正できるとの期待ができるかが重要なメルクマールとなっていると考えられる。

従って、最後に、先行行為と財務会計上の行為を同一の行為者が行い、

違法な原因を自ら是正できることができるときには、原因行為の違法性は原則として後行行為の当該職員が先行行為に関与していた場合には、その先行行為に違法がある場合には、その違法は後行行為について承継されるのである。

 

(2) 本件では、上記いずれの判例によっても、後行行為に違法は承継され

るものである。

まず、先行行為たる本件事業は、憲法13条、26条教育基本法10

条2項に反し行政の教育内容に関する不当な支配にあたるため、重大かつ明白な違法があり、その違法は後行行為たる各財務会計上の行為に承継される。

また、先行行為たる本件事業は、違憲・違法であるが、第4で述べる

ように各財務会計上の行為も違法なものであるから、先行行為の違法性は、各後行行為に承継される。

最後に、門川、中永及び在田はいずれも教育委員会の職員として、事

業主体が推進プロジェクトでありその意思決定がないにも拘わらず事業に関する行為を行うなどして本件事業に深く関与しており、先行行為の違法に加担しているのであるから、その違法はこれらの者が行った後行行為について承継されているのである。

従って、いずれの基準でも、先行行為たる本件事業の違法性は、後行

行為たる各財務会計上の行為に承継されるのである。

 

 6 特に桝本の故意・過失について

桝本は、自ら違憲・違法なジュニア検定事業を決定したものであり、

この決定がなければその後の違法な財務会計上の行為も存在しなかったのである。従って、仮に、「自ら当該財務会計上の非違行為を行ったと同視する程度の懈怠がある場合に限り、損害賠償責任を負う」との被告の主張を前提としても、当然に賠償責任を負う。

 

   

 7 京都市の損害

以上述べたように、本件事業自体が違憲・違法なものである以上、本件各

財務会計上の行為は、地方公共団体にとって有用かつ必要なものではない。

さらに、被告は、最高裁平成6年12月20日判決をあげて、「公共団体

が客観的経済的観点から見て価値のある利益を得た場合に、損益相殺を否定すべき理由は見いだし得ず」として損益相殺を主張する。

しかし、最高裁平成6年12月20日判決で、地方自治体が受けた利益、

すなわち損益相殺の対象となる利益は、それ自体は全く違法性のない地方自治体が賃借している市民の利用に供するテニスコート、少年野球場及びゲートボール場の土地賃借料と、同土地の近隣の相場に従った額又はそれに近い額の賃料土地の賃料との差額である。

これに対して、原告らは、本件事業及び地方自治体が受けた「利益」につ

いても、違法であり、被告が主張する「客観的外形的に価値のある利益」ではない、としているのである。

 

第4 本案に関する争点(2)―財務会計上の行為自体の違法、不当性 

 1 京都新聞開発鰍ゥらの『歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定テキストブック』(以下、本件テキストという)購入手続自体(1197万円)の違法、不当

(1)本件テキスト購入費への公金支出の事実

乙5号証の1によれば、市教委は、2006(平成18)年3月27

日、『歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定テキストブック』38,000部を1197万円で購入するための支出負担行為書を決定し、2006(平成18)年4月26日付支出命令書(物品)によって、同年5月2日同金額の公金を支出した(乙26号証)。

しかし、その公金支出手続自体において、次のような違法、不当があ

る。

 

(2)地方自治法208条(会計年度及びその独立の原則)違反

甲41号証・平成18年度当初予算(案)主要事項によれば、本件検

定は、当初、平成18年度の「新規事業」とされ、テキスト購入も「平成18年4月刊行予定」とされており、平成18年度予算として計上されていた。すなわち、平成17年度予算には本件検定事業は計上されていなかった。

ところが、本件テキスト購入費1197万円は平成18年3月27日、

平成17年度予算内で負担行為の確定がなされ、支出された(乙26号証)。

これは、地方自治法208条「会計年度及びその独立の原則」に反す

る重大な違法支出である。

 

(3)数々の適正手続規定違反

上記のとおり、市教委は、本来2006(平成18)年度予算の事業

であったものを前倒しして2005(平成17)年度末に慌ただしく執行しようとしたため、次のとおり数々の公金支出行為の適正を担保する手続規定違反をおかした。  

ア 本件検定事業そのものの実施決定の不存在

そもそも、市教委は、本件検定事業を実施するという決定手続を行って

いない。

この点について、被告は、「文書ではないが、市教委による意思決定は

行われている。」(被告第1準備書面3頁)、「門川大作教育長(当時)の推進プロジェクト委員就任時に、決定書によってではないが、市教委として本事業について実施する方針を決定した。」(被告第7準備書面9頁、第12準備書面9頁)と弁明する。

しかし、原告第5準備書面13頁でも述べたように、京都市公文書管理

規則第6条では、「意思決定にあたっては、公文書を作成するものとする。」(甲38)とされており、「特に軽易なもの」以外は、公文書による意思決定が必要である。 

今回は、本件検定事業を実施するという決定行為は行われておらず、本

件テキスト購入のための公金支出は重大な手続上の瑕疵があり、無効である。

 

イ 本件テキストの無料配布決定の不存在

本件テキストは、2006(平成18)年2月14日、本件検定事

業の「実施主体」(甲7号証3頁、甲14号証3頁)とされていた推進プロジェクトで「有料」(「価格800円(予定)、市立小学校4・5・6年生については特別価格。(広告収入と京都市等からの補助により300円程度で提供))と決めていたのに(甲50号証、資料2)、その後市教委は無料配布についての「事業実施決定行為」のないまま、2006(平成18)年3月27日、無償で配布するため本件テキストを購入した。

この点、被告は、総務部長の「支出負担行為書」(乙5号証の1)に

よって無料配布の意思決定があった旨弁解するが、「支出負担行為書の決定」をもって「事業実施の決定」の代替とすることはできず、無料配布の決定手続不存在は市監査委員もこれを明言している(甲2号証16頁)

したがって、市教委による「無料配布」の決定手続(書)が存在し

ない本件テキスト購入のための公金支出には、その基礎において通常の職員からみれば一見明白で、重大な手続上の瑕疵があり、無効である。

なお、この点について、被告第12準備書面では、「推進プロジェク

トを『実施主体』という方針があったが、テキスト作成や検定の実施にあたり、推進プロジェクトの事務局としての京都市教育委員会の比重が高まり、結果として京都市教育委員会が実施主体となったものである。」と主張する(10頁)が、これこそ、市長による構想の正式発表(甲7号証)をなし崩し的に変更したという暴論である。被告の、「事業の実施主体である市教委の決定が、推進プロジェクトの決定に拘束されるものではない。」(被告第13準備書面13頁)というような主張は通用するものではない。

 

ウ 地方自治法施行令167条の2第1項違反(随意契約事由の不存在)

上記「支出負担行為書」(乙5号証の1)によれば、本件テキスト購

入を随意契約で行う理由を「地方自治法施行令167条の2第1項第1号」と記載しているが、本件テキスト購入(1197万円)の契約金額は、同号の規定により随意契約によることができるとされている金額(同施行令、別表第5、2「財産の買入れ」、都道府県・指定都市の場合は、160万円)をはるかに超えており、同号を理由とする随意契約を締結することはできない(なお、被告は、上記記載は同施行令167条の2第1項第7号の単純ミスである旨弁解するが、、専門職員がそのような明白な誤りを看過するなどとは直ちに信じがたく、重大な違法と言うべきである)。

 

エ 京都市会計規則53条、京都市契約事務規則35条違反(請求書、

物品供給契約書の不存在)

京都市会計規則53条では、支出命令書には、請求書を添付するこ

とを義務づけているが(甲51号証)、本件支出命令書(乙26号証)には「請求書番号」による特定がなされておらず、また、同26号証に添付されている京都新聞開発鰍フ請求書にもこれに対応するはずの「請求書番号」の特定が記されていない。

また、京都市契約事務規則35条では、契約の締結にあたっては、

契約書作成省略事由のある場合を除き(同規則36、37条)、契約の目的、契約金額、履行期限、契約保証金、契約の履行の場所などの時効を記載した「物品供給契約書」が作成されていなければならないことが規定されているところ(甲52号証)、本件テキスト購入に際しては「物品供給契約書」(契約番号533505)が「支出行為負担書」に全く添付されていない(乙5号証の1)。

因みに、本件テキスト購入後の2006(平成18)年12月7日、

再度、市教委が京都新聞開発鰍ゥら本件テキスト21,137冊を6,658,155円で追加購入した際には、「物件供給契約書」を「契約No539631」の特定番号とともに「支出負担行為書」が作成され、支出されている(甲53号証)。

したがって、本件テキスト購入にあたっては、これら公金支出の適

正を担保する京都市会計規則、契約事務規則に違反してなされたもので、その違法性を過小評価することは到底許されない。

 

オ 刑法156条違反(支出負担行為書、支出命令書の虚偽記載)

@ 本件テキストの完成は2006(平成18)年4月以降である

本件テキストは、2006(平成18)年3月31日が納入期限と

され(乙5号証の1)、同テキストの奥付も発行日が2006(平成18)年3月31日とされている(乙2号証)。

しかしながら、甲43号証・市教委の平成18年4月19日付決定

書「『歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定テキストブック』完成報告会について」では、「いよいよ来月刊行することとなりました」とされ、発行日も「5月中旬(予定)」とされている。また、甲42号証同年4月25日付決定書「『歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定(通称:ジュニア京都検定)テキストブック』の刊行について」では、門川教育長名の「平成18年5月」の日付入り同名文書を添付し、その中でも「いよいよ今月刊行する運びとなりました」と明記されている。

このことは、甲41号証・「平成18年度当初予算(案)主要事項」

に、テキストは「平成18年4月刊行予定」と明記されていることや、甲50号証・第2回「歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定」推進プロジェクト会議作成の平成18年2月14日付会議次第、資料2においても、その刊行スケジュールとして「平成18年4月中旬最終稿完成→発売」と記載されていることにも符合する。

この点、被告は「テキストは平成18年3月31日に完成したが、

書店の売出しは5月中旬になった」などと弁解するが(被告第1準備書面5頁、第13準備書面3頁)、全くの後知恵にすぎない。

 

A 支出負担行為書の虚偽記載(乙5号証の1)

乙5号証の1・本件テキストの支出負担行為書によれば、「納入期

限」として「平成18年3月31日」となっているが、その起案日がわずか4日前の「平成18年3月27日」となっているのみならず、決裁日も手書きで同日の「3月27日」とされているばかりか、乙5号証の2・京都新聞開発轄成の見積書も同日の「3月27日」となっている。

これは通常の支出負担行為の手順、所要日数に鑑みて、極めて不自

然であるばかりか、上述のとおり平成17年度予算消化のため、年度内決裁を急いだ嫌疑が極めて濃厚であって、少なくとも「3月27日」に市教委において同日決裁がなされたとの記載は通常考えられず、虚偽記載がなされたものである。

 

B 支出命令書の虚偽記載(乙26号証)

乙26号証・支出命令書(物品)によれば、「履行年月日 平成1

8年3月31日」とされ、「検収済/確認」欄には「小司」と押印されている。「小司」は、本件事業を担当している市教委生涯学習部みやこ子ども土曜塾推進係長である。

しかしながら、本件テキストの刊行は上記のとおり、2005(平

成17)年度を超えた、2006(平成18)年4月以降であることが強く推認されるのであって、平成18年3月31日納入(検収)など決してあり得ない。

このような、公文書の虚偽記載は公金支出の適正さをチェックす

る監査を誤らしめる、公務員としての基本的かつ明白な職務違反行為だけでなく、刑法156条(虚偽公文書作成罪)にも該当する重大な違法=無効行為である。

 

(4)地方財政法4条1項違反(必要性、比例原則違反)

地方財政法4条1項は、「地方公共団体の経費は、その目的を達成する

ための必要且つ最少の限度を超えて、これを支出してはならない」と規定する。

ア 教材としての不適切な本件テキスト購入の不必要性

学校教育法21条2項は、「教科用図書以外の図書その他の教材で、有

益適切なものは、これを使用することができる」と規定する。これを受けて、市教委も、教材の選定基準として、「表現が正確適切であること」と定めている(甲17)。

しかしながら、本件テキストには、その内容の誤りや不適切な記述、ま

た、現在、市内の小中学校で使われている社会・歴史教科書と異なった記載などが多く、子どもたちの混乱が懸念されるものであった(原告第2準備書面)。

そのため、市教委は、刊行2年足らずで、171項目、ほぼ各ページに

1か所ずつもの誤りを訂正するよう、京都新聞開発鰍ノ指示し、同社は、2008年3月末に全面的な改訂版を発刊せざるを得なくなった。

このような本件テキストは「有益適切」「表現が正確適切」な教材とは

到底言い難く、38,000部、1197万円の公金支出を行う必要に乏しいものであって、地方財政法4条1項に違反する。

 

イ 本件テキスト購入数の最小限度=比例原則違反

2006(平成18)年度の京都市立小学校の4〜6年生の児童数は、

34,658名にすぎなかったが、市教委は、京都新聞開発鰍ゥら、本件テキストを38,000部購入した。

市教委によると、その配布内訳は、次のとおりという(甲54号証)。

・児童、教員分                                        36,197冊

・各校1部(小・中・小学部を置く総合養護学校)    273冊

・プロジェクト委員・顧問、事務局等関係者

   (東京事務所200冊等)、広報         1,487冊

・在庫                                                43冊

合計                                           38,000冊

しかしながら、38,000冊−上記児童・教員分36,197冊=1,

03冊については、配布先リスト、あるいは持出簿のような書類は作成されておらず、、その配布の事実関係は全く証明されていない。

これは、不必要で、比例原則に反する出費であって、地方財政法4条1

項違反にあたる。

なお、この点について、被告は、「(本件テキストは)『備品ではなく

、『消耗品』の取扱いとなる。備品と違い、消耗品については台帳で管理が義務づけられているのは、郵券等の金券類のみであり、本テキストは台帳での管理が義務づけられたものではない。」と主張する(被告第13準備書面5頁)。

しかし、1803冊ものテキストを持ち出す際に、何時、誰が、何処に

配布するために持ち出したということを記録するのは自治体の業務として当然のことである。

たとえば、市教委は、2008年1月、門川前教育長が京都市長選挙に

立候補しているにもかかわらず、同氏の対談が大きく掲載された『教育再生への挑戦 市民の共汗で進める京都』という書籍1400部を公費で購入し、関係者に配布したが、この際も、市教委は、配布先リストを作成している。また、同じ頃、『輝け、きょうの子どもたち』という書籍を購入したが、これについても配布先リストが作成されている。

本件テキストについても、配布先リスト、もしくは持出簿のような書類

が存在していないことは実際にはあり得ない。配布先、持ち出し先が明らかになれば、不必要な購入だったことが明らかになってしまうため、存在しないと主張しているものと推測される。

(5)不当な公金支出―過剰な便宜供与

市教委は本件テキストの著作権者は「京都新聞開発梶vであることを明言

した(甲47号証)。

しかし、本件テキストの原稿執筆、作成にあたったのは京都市立小学校の

教員らであるが、教員らは市教委からは勿論、京都新聞開発鰍ゥらも原稿料・印税等の支給はなく、さらに増刷時においても同様である。

そうすると、京都新聞開発鰍ノよる本件テキスト作成、販売にあたって、

上記教員らの了解もなく市教委が京都新聞開発鰍ノ対し、本来有する教員らの著作権を集約して本件テキストの著作権を無償譲渡したことに他ならない。

その結果、京都新聞開発鰍ヘ何ら執筆の労を割くことなく、著作料に相当

する金額を儲けることができた反面、市教委は本件テキストを高額で買い取ることとなった。

因みに、市教委は昨年までに、すでに7万部以上もの本件テキストを購入

している(原告第5準備書面8頁)。さらに、2008年3月にも、新小学4年生に配布するために、改訂版のテキスト14,000部を6,321,000円で購入した。(当初、一冊300円だったが、この改訂版については、単価430円に増額されている。) 今後も本件検定を続ける限り、毎年約1万4000名もの新小学4年生に配布のため購入し続けることが予想される。

このような市教委による一私業である京都新聞開発鰍ヨの著作権無償譲渡

=過剰な便宜供与を起点として、本件テキスト購入→不当な公金支払のみならず、今後永続的な不当な公金支出がなされる癒着が生じているのであって、到底許されない。

 

(6)職員の行為・過失

在田正秀は、市教委総務部長で本件テキスト購入費(1197万円)の支

出の決裁権者であり(乙5号証の1)、同人の決定による上記違法・不当支出につき、「当該職員」として故意または過失にもとづいて行った。

桝本ョ兼は、市長であり(当時)、本件テキスト購入費支出の本来の決裁

権者であり、上記違法・不当支出につき、「当該職員」として故意または過失があった。

門川大作は市教育長であり(当時)、本件テキスト購入について指揮監督

責任者であって、上記違法・不当支出につき、「怠る事実に係る相手方」として故意または過失があった。

 

(7)損害の発生

よって、京都市には本件テキスト購入費1197万円の公金支出によって

同額の損害が発生している。

 

2 京都商工会議所からの「京都検定テキスト等」(以下、「本件書籍」とい

う)の購入手続自体(341,000円)の違法、不当

(1)本件書籍購入への公金支出の事実

市教委は、2005(平成17)年9月、京都商工会議所から『京都観光

文化検定試験(公式テキストブック)』と『第1回京都検定問題と解説」を各110冊購入することを決定し、同年11月に341,000円の公金を支出した。

しかし、その公金支出手続自体において、次のような違法がある。

 

(2)刑法156条違反(支出負担行為書、支出命令書の虚偽記載(乙3号証の1、乙25号証))

まず、乙25号証・支出命令書(物品)、及び同添付の請求書には「請求

書番号」が記載されていない不備がある。

次に、乙3号証の1・支出負担行為書では「決裁日」が「17..21」

、「納入期限」が「平成17年9月26日まで」とされているのに、乙25号証・支出命令書では、「負担行為確定日 平成17年9月20日」、「履行年月日 平成17年9月26日」とされ、「検収済/確認 小司」と記載、押印されている。また、支出命令日は、平成17年11月18日となっている。

ところが、被告は、「支出負担行為書等の文書は、9月に契約し、納品し

たことになっているが、実際には6月に----配布した。」(被告第2準備書面9頁)、「執筆作業に間に合うよう、平成17年6月15日に京都商工会議所から納品された」(被告第13準備書面5頁)と、支出負担行為書(乙3の1)、支出命令書(乙25)等の書類は、虚偽のものであることを自白した。

このような虚偽記載は、公金支出の適正さをチェックすることを危うくさ

せ、公務員としての基本的かつ明白な職務違反行為であるばかりでなく、刑法156条(虚偽公文書作成罪)にも該当する重大な違法=無効行為である。

なお、この点について被告は、「その理由としては、京都商工会議所から

提出された見積書、納品書及び請求書について不備があり作り直しを繰り返していたため、遅れたものである。」と弁明する(被告第13準備書面5頁)。

しかし、このような簡単な書籍購入において、「見積書、納品書及び請求

書について不備があり作り直しを繰り返していた」などということは考えられないし、少なくとも支出負担行為書は、購入の決定であるから、6月に納品されていたというのなら、その前に作成されていなければならず、被告の弁明は通用しない。

もし、本件書籍が6月に納品され、テキスト執筆者に配布されていたとい

うのなら、当初は、京都商工会議所から「無償提供」とされていたとしか考えられない。それを、事後になって、市教委の購入という形式に変更したため、こうした関係書類の矛盾が露呈したものと推測される。

 

(3)地方財政法4条1項違反(必要性原則違反)

ア 無駄な、必要性のない公金支出

本件書籍、合計220冊の購入目的は「ジュニア京都検定協力者の資料

として使用するため」と記載されている(乙3号証の1)。

しかしながら、本件テキストの執筆作業は2005(平成17)年6月

から始まり、7月22日には各執筆者から原稿提出が予定され(甲8号証の2)、8月29日第3回執筆者会議において、「全執筆者の皆様から原稿をご持参いただきました」(甲8号証の8)とされているとおり、各執筆者の執筆作業はほぼ8月末には終了していたのである。かつ、9月27日第4回執筆者会議は開催されていない(甲8号証の11)。

そうとすれば、本件書籍購入の支出負担行為書によれば、納入期限が「

9月26日まで」とされているところ、そのような時期に各執筆者に配布しても執筆作業の用は供することはほとんど不可能である。

よって、本件書籍の購入は全く無駄な、「必要性のない」ものであって

、その公金支出は地方財政法4条1項に違反する。

 

イ 本件書籍は、出版社から購入すれば、もっと廉価で購入できたはずであ

市教委は、本件書籍を書店や出版社からではなく、京都商工会議所から

定価で購入した。

しかし、従来、市教委が書籍を多数購入する場合、出版社から定価の約

2割引以下で購入しているのが通常である。たとえば、次のような事例があるが、いずれも定価の71〜80%の価格で購入している。

・2005年8月11日 『京都発しなやか道徳教育』を800部、

出版社(創元社)から1冊1200円(定価1575円)で購入

・2005年8月18日 『京都発地域教育のすすめ』を1800部

、出版社(ミネルヴァ書房)から1冊1125円(定価1575円)で購入

・2007年1月15日 『人材立国論』を550部、出版社(経済

産業調査会)から1冊1120円(定価1400円)で購入

・2008年1月20日 『輝け、きょうの子どもたち』を2000

部、出版社(ミネルヴァ書房)から1冊1125円(定価1575円)で購入

この点について、被告は、「京都商工会議所から調達するのが最も早い

と考えたため」と弁明する(被告第13準備書面6頁)。しかし、被告自身が、「京都商工会議所には在庫がなかったため、各出版社に依頼し、何とかかき集めたと聞いている。」(同6頁)と認めざるを得ないように、出版社から安価で購入せず、敢えて、在庫もなかった京都商工会議所から購入したというのは、きわめて不自然である。

今回の場合、淡交社、京都新聞出版センターから直接購入すれば、もっ

と廉価で購入できたはずであり、この点でも、地方財政法4条1項に違反する。

 

(4)職員の行為・過失

中永健央は、市教育総務課長で、本件書籍購入費(34万1000円)の

支出の決裁権者であり(乙3号証の1)、同人の決定による上記違法・不当支出につき、「当該職員」として故意または過失にもとづいて行った。

門川大作は市教育長であり(当時)、本件書籍購入の指揮監督責任者であ

って、上記違法・不当支出につき、「怠る事実に係る相手方」として故意または過失があった。

 

(5)損害の発生

よって、京都市には本件書籍購入費34万1000円の公金支出によって

同額の損害が発生している。

 

3 京都電子計算鰍フシステム構築及び運営準備業務委託(以下「本件準備委

託契約」という)費用支出自体(3,528,000円)の違法、不当

(1)本件準備委託契約への公金支出の事実

乙4号証の1によれば、市教委は、2006(平成18)年2月28日、

「平成17年度『歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定』システム構築及び運営準備業務の委託について」と題する文書によって、京都電子計算株式会社との随意契約により、3,528,000円で締結することを決定した。

本件準備委託契約は同年3月1日、契約期間が「平成18年3月1日から

同年3月31日」という、平成17年度内のわずか1か月間だけのものとして締結され(乙4号証の3)、同年5月1日支出命令書によって同年5月16日全額公金支出された(乙27号証。なお、同支出命令書、及び請求書には「請求書番号」が明記されている)。

しかし、その公金支出手続自体において、次のような違反、不当がある。

 

(2)地方自治法208条(会計年度及びその独立の原則)違反

市監査委員は、平成17年度内の最後のわずか1か月間のみの本件準備委

託契約につき、「本件準備業務のような、最終的な成果(本件では、本件検定に係わるシステム構築及びその運用)を得るための準備にすぎない業務は、・・・本件システム構築等業務の委託もされないうちに、本件準備業務のみを独立させて委託するなどということは、通常考えられない。以上のことからすると、本件準備委託契約は、その締結時において、市にとって何ら実質的な意義のある成果を得ることのできない契約であって、契約の目的が明らかに合理性を欠くものであった」、「当該契約の目的自体に問題がある」と指摘している(甲2号証27頁)。

また、本件準備委託契約の支出負担行為書(乙4号証の4)では、「項 

社会教育費」、「目 社会教育事業費」、「大・中・小事業 家庭教育・子育て支援の充実」となっているのに対し、本件準備委託業務の本業務ともいうべき基礎コース・検定処理業務の同業者への2006(平成18)年10月1日付委託決定書にもとづく支出負担行為書(甲63号証)では「項 教育総務費」、「目 事務局費」、「大・中・小事業 みやこ子ども土曜塾」と、同種業務であるのに全く「項・目・事業」の費目を異にしている。

これは、上述のとおり、市教委による本件テキスト38,000部の購入が

、当初は平成18年度に予定されていたのに、急遽平成17年度予算で執行したことと同様の、前倒し支出に他ならない。

したがって、このような「契約の目的自体不合理、不当」なものをでっち

上げて、予算の前倒し支出は地方自治法208条に違反する重大な違法支出である。

 

(3)数々の適正手続規定違反

本件準備委託契約においても、上記本件テキスト購入契約の場合と同様、

駆け込みで年度内執行を行おうとしたため、次のとおり数々の公金支出行為の適正を担保する手続規定違反をおかした。

ア 地方自治法施行令167条の2第1項、「京都市物品等の調達に係る随

意契約ガイドライン」違反(随意契約事由の不存在)

市教委は、本件準備委託業務を随意契約で締結した理由として、「地方

自治法施行令167条の2第1項第2号」としている(乙4号証の2)。

ところで、京都市は、本件準備委託業務は「京都市物品等の調達に係る

随意契約ガイドライン」(甲57号証)による「随意契約を行うことができる場合の基準」のうち、「2 その性質又は目的が競争入札に適しない契約をするとき、(1)特定の1者しか履行できないもの、イ 特定の1者でなければ提供できない役務に係る契約、(イ)特殊な技術又は秘密の技術に関する情報その他の他の者が有し得ない専門的な知識、技術等を必要とするもの」にあたると述べている(甲54号証3枚目)。

しかしながら、本件準備委託業務はもちろんのこと、その後本業務とも

いえるシステム構築及び運営業務は、京都電子計算鰍ナなければできない役務ではなく、上記ガイドライン基準「2(1)イ(イ)」には該当しない。現に市教委は翌平成19年度のジュニア検定処理業務につき、プロポーザル方式により受託事業者を選定の上(甲58号証)、その結果京都電子計算鰍ニは異なる事業者(ワールドビジネスセンター梶jとの間で業務委託契約が締結されているのである(甲59、60号証)。

また、上記ガイドラインでは、基準2(1)イの「運用上の留意点」と

して、「他の者では履行し得ない役務の提供であることについて同業他社に確認するなど客観的に確認すること」と記載されているが、本件ではこの「客観的確認」が全くなされていない。

以上から、本件準備委託業務の随意契約は、地方自治法施行令167条

の2第1項、「京都市物品等の調達に係る随意契約ガイドライン」に違反している。

 

イ 京都市契約事務規則27条違反(見積書の不存在)

@ 京都市契約事務規則27条は、「随意契約により契約を締結しようと

するときは、2人以上の者から見積書を徴さなければならない。ただし、予定価格が100,000円以下の契約を締結しようとする場合その他特別の理由があるときは、この限りでない。」と規定している(甲52号証)。

しかしながら、本件準備委託業務の随意契約にあたっては、京都電子

計算活ネ外には見積書を全くとっていない。

因みに、市教委は、その後2006(平成18)年10月1日基礎コ

ースの検定処理業務を、同年12月22日発展コースの検定処理業務を、それぞれ京都電子計算鰍ニ随意契約を行うにあたっては、他社(京信システムサービス、ワールドビジネスセンター)からの見積書をとっているのであり(甲61、62号証)、本件準備委託業務は京都市契約事務規則27条に違反している。

 

A なお、乙4号証の2によれば、本件準備委託業務の随意契約とした理

由が「地方自治法施行令167条の2第1項2号」とされているところ、翌平成18年度の本業務ともいえる(基礎コース、発展コース)検定処理業務(甲61、62号証)の随意契約理由は「地方自治法施行令167条の2第1項7号」(時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき)となっている。

これは、後者の場合には複数業者からの見積書をとっているのに、前

者(本件準備委託業務)の場合には、見積書をとっていない違法があることを、市教委自ら自白しているものである。

 

ウ 刑法156条違反(業務委託の決定書、契約書の虚偽作成)

本件準備委託業務は、2006(平成18)年3月1日に平成18年度

末のわずか1か月間のみの期間につき締結されたが(乙4号証の3)、市教委は、2005(平成17)年夏頃から、検定業務運営について委託契約もなく、京都電子計算鰍ノ業務を行わせてきた(甲54号証、別添資料、議事録(平成17年11月18日、平成18年2月10日))。

ところで上記議事録(H18年2月10日)では「京都市様が商工会議

所様に委託し、そこから業者という流れで検討されている」となっていたものが、本件準備委託業務締結後の平成18年3月16日の議事録では、「今年度の契約としては、京都市様が商工会議所様に委託し、商工会議所様が当社に委託するという形の予定」と記載されている。

そうすると、本件準備委託業務はそもそも京都市→商工会議所→京都電

子計算鰍フ順序として委託業務が予定され、3月16日段階でもそのようになっていたにもかかわらず、遡って3月1日付で市教委と京都電子計算鰍ェ直接に業務委託の形をとっているのは、乙4号証の1・決定書及び乙4号証の3・業務委託契約書はそもそも内容が虚偽の文書が作成されたと言わざるを得ない。

したがって、市教委の意思決定もなく、虚偽内容の乙4号証の4・支出

負担行為書を作成したのは、公務員としての基本的な職務規程に違反するばかりか、刑法156条(虚偽公文書作成罪)に該当する重大な違法であり、無効な支出行為である。

 

エ 地方自治法施行令167条の16、京都市契約事務規則29条の2、同

35条違反(契約保証金の不徴求)

地方自治法施行令167条の16は、「普通地方公共団体は、当該普通

地方公共団体と契約を締結する者をして当該普通地方公共団体の規則で定める率又は額の契約保証金を納めさせなければならない」と規定し、これを受けて、京都市契約事務規則35条1項では「契約書を作成する場合においては、契約の目的、契約金額、履行期限及び契約保証金に関する事項のほか、次に掲げる事項を記載するものとする。ただし、契約の性質又は目的により該当のない事項については、この限りではない」と規定している(甲52号証)。

しかしながら、本件準備業務委託契約書(乙4号証の3)には、契約保

証金の記載はおろか、京都市契約事務規則35条1項に定める契約書の記載事項のうち、(5号)危険負担、(6号)瑕疵担保責任、(7号)契約の履行の際生じる第三者との紛争の解決の方法に関する事項が定められていない。

また、本件準備委託業務契約には、契約保証金に代わる担保の徴求もな

く(同規則29条の2)、また本件では特段「契約保証金の全部又は一部免除」事由(同規則30条)にも該当しない。

したがって、本件準備委託業務への公金支出は、地方自治法施行令16

7条の16、京都市契約事務規則に違反している。

 

(4)不当な公金支出―過剰な便宜供与

ア 監査結果の誤り 

本件準備委託業務につき、監査結果は、「(オ)・・・本件公金支出2(本

件準備委託業務のこと―引用者)により市の損失が発生したかどうかは、なお確定していないというべきである。

具体的には、本件システム構築等業務が同社に委託され、かつ、当該委

託に係る委託料に本件準備委託業務に係る経費が含まれない場合には、

本件公金支出2を原因とする市の損失は、発生しないこととなる。

(カ)以上のとおり、本件公金支出2は、市にとって明らかに意義のな

い成果物を目的とする契約に基づき行われたものであって、明らかに合理性を欠くといわざるを得ないが、現時点において、これにより市に損失が生じているとは認められない」として監査請求を棄却した(甲2号証27〜28頁)。

しかしながら、平成18年度の基礎コース検定処理業務(甲61号証)

、及び同年度発展コース検定処理業務(甲62号証)の各「業務委託仕様書」において、本件準備委託業務で実施されたとする「平成17年度ジュニア京都検定システム構築・運営準備業務」「成果物 スケジュール表、仕様確認資料、システム構築・運営イメージ資料、システム操作マニュアル資料、受験票等帳票サンプル見本、議事録」を含まないとは明記されていない。

もともと準備業務と本業務を分離することは困難であり、万一他の業者

が平成18年度の検定処理業務を受託した場合には、当然最初の準備業務から始めなければならないものである。

したがって、本件準備委託業務は、平成18年度の検定処理業務と重複

しており、京都市に二重払いの損失が発生していることは明らかである。

 

イ 京都新聞グループとの癒着

なお、本件準備委託業務の契約先である京都電子計算鰍煖椏s商工会議

所の一員である「京都新聞グループの1社」である(甲59号証、受託候補業者の総合評価表)。

先に見たとおり、本件検定業務に関し、本件テキスト購入に際しては市

教委の京都新聞グループの1社、京都新聞開発鰍ヨの過剰な便宜供与(著作権の無償譲渡)による損失が存在しているところ、本件準備委託業務においては同じく京都新聞グループの1社、京都電子計算鰍ヨの上記過剰な便宜供与による損失が発生しているのである。

 

(5)職員の行為・過失

中永健央は、市教育総務課長で、本件準備委託契約費(352万8000

円)の支出の決裁権者であり(乙4号証の1)、同人の決定による上記違法・不当支出につき、「当該職員」として故意または過失にもとづいて行った。

桝本ョ兼は、市長であり(当時)、本件準備委託契約費支出の本来の決裁

権者であり、上記違法・不当支出につき、「当該職員」として故意または過失があった。

門川大作は市教育長であり(当時)、本件準備委託契約について指揮監督

責任者あって、上記違法・不当支出につき、「怠る事実に係る相手方」として故意または過失があった。

 

(6)損害の発生

よって、京都市には本件準備委託契約費352万8000円の公金支出に

よって同額の損害が発生している。

 

 

inserted by FC2 system