平成18年(行ウ)第28号 損害賠償請求事件

原告 北上田 毅外22名

被告 京都市長

 

第3準備書面

平成19年11月5日

 

京都地方裁判所 第3民事部 合議C係 御中

 

                 原告訴訟代理人弁護士 折 田 泰 宏

                       同    坂 和   優

                       同    上 瀧 浩 子

 

はじめに

 本書面は被告第3、第4準備書面に対する反論を行うことを目的とする。

 

第1 「京都・観光文化検定試験(公式テキストブック)」及び「第1回京都検   定問題と解説」の購入が地方財政法4条に違反している点について

  1 地方財政法第4条1項の解釈について

被告はこの点、地方財政法第4条1項は、財政運営の効率化すなわち

経費効率の向上を図るべきことを規定したものであり、この規定は、地方公共団体がその事務を処理するにあたって準拠すべき指針を一般的抽象的に示したものにすぎず、これらの規定が公金の支出を具体的に規制しているものとはいえないとしている。

しかし、判例は、「地方自治法2条14項は『地方公共団体は、その

事務を処理するにあたっては(中略)最小の経費で最大の効果を上げるようにしなければならない』と定め、地方財政法4条1項も『地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要かつ最小の限度をこえて、これを支出してはならない』と規定しているから、出張旅費の支出行為の必要性を判断にあたっては、当該出張の職務行為との関連性のみならず、当該職務行為にとって当該出張が必要最小限度のものであるかとの観点に置いても検討されるべきである。したがって、本件出張命令に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かは、本件出張の目的、その必要性の度合い、態様などを総合的に勘案して判断されるべきである。」(福岡高等裁判所平成12年10月26日判決、判例タイムズ1066号240頁)としている。

この判例によれば、個々の支出の違法性判断にあたって、単にその経

費支出の必要性のみならずその程度まで勘案して必要最小限度といえるかどうかを検討しており、その根拠として地方自治法第2条14項及び地方財政法第4条1項を挙げているのである。そして、この必要最小限度性に反する場合には裁量権の逸脱又は濫用となり、地方自治法2条14項及び地方財政法第4条1項に違反するとの結論を導いているのである       

従って、被告が述べるように、地方財政法第4条1項は、一般的抽象

的規範にとどまるものではなく、原告が述べる本件地方財政法4条1項違反という主張には理由がある。

 

2 「京都・観光文化検定試験(公式テキストブック)」及び「第1回京都検

定問題と解説」の購入が地方財政法4条1項に違反している点について

 本件事業が正式な手続を踏まずに開始されたものである点、本件事業が教育行政による教育内容への不当な介入にあたる点、本件事業の内容が反教育基本法的である点の何れからみても本件事業は違法であるから、本件事業の執行に伴う各支出は違法である。従って違法な事業を遂行するためになされた本件各公金支出は必要性のない支出であり、裁量権の逸脱にあたる。

 

第2 門川に対する請求が監査前置主義を欠くとの主張に対する反論

1   被告は、福岡高裁平成17年10月17日判決(以下「福岡高裁判決」

という。〔判例タイムズ1206号198頁〕)を引用して、門川については、「怠る事実の相手方」としては監査請求がなされておらず、従って、これに対する請求は却下されるべきであるとする。

 

この点、最高裁平成10年7月3日の判決は、「住民は(中略)、監

査請求をする際、監査の対象である財務会計上の行為又は怠る事実を特定して、必要な措置を講ずべき事を請求すれば足り、措置の内容及び相手方を具体的に明示することは必須ではなく、仮にとるべき措置内容等が具体的に明示されている場合でも、監査委員は、監査請求に理由があると認めるときは』明示された措置内容に拘束されずに必要な措置を講ずることができると解されるから、監査請求前置の要件を判断するために監査請求書に記載された具体的な措置の内容及び相手方を吟味する必要はないといわなければならない。」としている。

最高裁判決によれば、少なくとも監査請求の具体的な措置の相手方と

同一の相手方、または監査請求と具体的に同一の請求であれば、監査請求前置は認められるのである。

これに対して、被告が上記主張の根拠として引用する福岡高裁判決で

は、監査請求において求めた具体的な措置の相手方とは異なるZを相手方とし、かつ、監査請求と具体的に異なる請求をした場合である。

すなわち、福岡高裁判決において、同判決で監査前置が存在しないと

判断されたZに対しては、監査請求自体がなされておらず、原審において初めてZが登場してこれに対する損害賠償義務の主張がなされ、その後、控訴審においてZに対する「怠る事実」の主張がなされたという事案であり、Zは、監査請求の段階では、相手方としても、請求の内容としても現れていなかったのである。

従って、福岡高裁判決の是非はともかくとして、福岡高裁判決におい

て上記最高裁判例とは事案が異なるとして、上記Zに対する監査請求前置が否定された事には理由がある。

 

2   本件の場合は、監査請求において門川の名前を明示した上、その行為

も「昨年9月、京都商工会議所から書籍を341.000円で購入した」、「本年2月、システム構築及び運営準備業務委託費として3.528.000円を支出した。」、「本年3月末には、テキスト購入費用として11.970.000円を支出している。」として、門川の財務会計上の行為として各公金支出行為を特定して明示し監査請求をしているのであるから、具体的な措置の相手方として既に現れているのであるから、少なくとも監査請求の同一の相手方に対する請求として、監査前置の要件を満たしている。

    従って、最高裁判決の基準によっても、福岡高裁判決の基準によって

も門川に対する監査請求前置は肯定されるのである。

 

第4 本件事業の決定は財務会計上の行為ではないとの被告の主張に対する反論

確かに、本件事業それ自体は財務会計上の行為とはいい難い事は認める。

しかし、原因行為となる事業自体が違法な行為であれば、それに伴う財

務会計上の行為も又違法となるとするのが判例である。(最高裁昭和52年7月13日大法廷判決)

 本件事業は、本件事業が正式な手続を踏まずに開始されたものである点、本件事業が教育行政による教育内容への不当な介入にあたる点、本件事業の内容が反教育基本法的である点から、内容的にも手続的にも当然に違法な行為であり、これを原因とする財務会計上の行為は違法である。

 

第5 中永及び在田に重過失が存すること

1 中永及び在田の本件事業の違法性に対する認識の可能性 

(1)  本件事業は、本件事業が正式な手続を踏まずに開始されたものである

点、本件事業が教育行政による教育内容への不当な介入にあたる点、本件事業の内容が反教育基本法的である点から、違法性がある行為である。

(2)  そして、第1に、地教行法23条では教育委員会の職務権限は、原則

として教育に関する事務のみを行うこととし、教育委員会は行政機関と相対的に独立の機関として設置運営されているのは、教育への不当な政治的介入を避けるための制度的な保障であって、この基本的な事項は教育委員会の職員であれば誰でも当然に理解している事項である。

しかるに、桝本は、京都市総合企画局京都創成推進室を設置して、平

成16年10月に、「歴史都市・京都創成策」を発表しており、(甲12号証)また、他方で、教育委員会自身が、本件事業は、「『京都創成』の取り組みの裾野を広げることにもつなげてまいります。」と、自ら「京都創成」と軌を一にして、その政策の片棒を担ぐことを述べているものである。

これらの事実に鑑みるならば、本件事業が、教育内容への教育行政へ

の介入の一環としてなされていること、また、これは教育委員会の存在理由に反することは明かであり、教育委員会の職員であれば誰でも容易に理解できる事柄である。

(3)  第2に、被告によれば、本件事業は教育委員会の事業として開始され

ているが、これについては教育委員会でもその他の機関でも、正式な決定がなされておらず、事実上本件テキストブックを作成することから始まっている。そして、その他の機関でも本件事業がそのテキストブック作成などの本件事業の準備作業前に正式決定されたことはない。

本件事業が、仮に教育委員会の事業であるとすれば当然にその決定が

教育委員会内部で行われるはずのところ、これが存在しないことは、教育委員会の職員として中永・在田は当然に知るべき立場にあった。

また、本件事業が他の機関で決定されるべき事業であったとしても、

教育委員会はその補助執行にあたっているのであるから、この事業が正式決定があったか否かについては当然、重大な関心を持つべき立場でありかつ知るべき立場にあったのである。

2 中永及び在田に故意または重過失が存在すること 

(1)「京都・観光文化検定試験(公式テキストブック)」及び「第1回京都

検定問題と解説」の購入

中永は上記1及び2の事実を知悉しながら平成17年9月16日に

は「京都・観光文化検定試験(公式テキストブック)」及び「第1回京都検定問題と解説」の購入のため、書籍代として34万1000円を支出したのであり、中永には重過失が認められる。

また、平成17年10月6日、推進プロジェクト設置要綱を定めた。

しかし、これは、『歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定』を推進していくため」の推進プロジェクトの設置であり(甲10号証)、本件事業自体は未だ正式決定はなされていなかった。

 

(2) 本件事業のためのシステム構築及び運営準備業務のために、京都電子

計算株式会社との随意契約を締結した行為について

中永は平成17年度の本件事業のためのシステム構築及び運営準備

業務のために、京都電子計算株式会社との随意契約を締結し、これに基づき352万8000円が支出しているが(乙4号証)、これも本件事業自体の決定がなされないまま行われており、また、教育行政の教育内容への不当な介入にあたることは明かである。従って、中永が上記システム構築及び運営準備のために支出負担行為を行ったことには重過失がある。

 

(3)本件テキスト3万8000部を1197万円で購入した行為について

平成18年2月14日には、第2回「歴史都市・京都から学ぶジュ

ニア日本文化検定」推進プロジェクト会議が開かれているが、ここで配られた資料「『ジュニア京都検定テキストブック』について」では、本件テキストの価格について「京都市内の小4・5・6年生については特別価格 (広告収入と京都市等方の補助により、300円程度で提供)」として有償で配布することが前提とされている(甲15号証)。そのため、在田は、平成18年3月27日には本件テキスト3万8000部を1197万円で購入した。

在田は、上記の1及び2の事情を知悉しながら、本件テキストの購

入をするために支出負担行為を行ったものであるから、重過失が存する。

3 まとめ

   以上により、教育委員会の職員である中永及び在田は、この本件事業

の違法性及びこれに伴う支出の違法性を容易に判断できるにもかかわらず、漫然と上記の支出をしたものである。従って、中永及び在田には重過失が存する。

 

第3 門川は不法行為上の損害賠償責任を負う  

門川は、教育長であり、中永及び在田の指揮監督責任者である。

門川は、その立場上、教育行政が教育内容に不当な介入をするべきで

はないこと、及び本件検定事業が不当な介入にあたることは当然に理解している。また、立場上、本件検定事業が正式な決定をなさないままに事実上継続してきたことについても当然に知っているのである。

従って、本件事業が違憲・違法であることは容易に知りうるのであり、

そのような行為を行わないように、また、本件事業に伴う支出がなされないように、職員を指揮・監督するべき立場にある。

従って、門川は、中永及び在田が第2の2の(1)ないし(3)の公金を支

出しようとしている場合には、これらの支出負担行為または随意契約に基づく支出を行わないように指揮・監督するべき責任がある。

しかし、門川は上記の指揮・監督を怠って、京都市に損害を与えたも

のである。

 

第6 桝本に過失が存すること

1  被告は、住民訴訟において首長が損害賠償責任を負うのは故意または重

過失がある場合であるとしているが、これは明らかに判例に反する。

すなわち、判例は「普通公共団体の長の行為による賠償責任については、

他の公共団体の職員と異なる取扱いをされてもやむを得ないものであり、(中略)同条1項(法243条の2のこと)所定の職員には当該地方公共団体の長は含まれず普通地方公共団体の長の当該地方公共団体に対する賠償責任については民法の規定によるものとする。」(最高裁昭和61年2月27日判決 判例時報1186号3頁)としており、地方公共団体の首長は、違法な行為について故意または過失がある場合には、当該地方公共団体に対して損害賠償責任を負うのである。

 従って市長である桝本は、本件事業が違憲・違法であることを知り、または、違法であることの認識が可能であるのに不注意でこれを認識しなかった場合には損害賠償責任を負う。

 

2  桝本は教育委員会に長期にわたって勤務しており、本件事業は、京都創

成という桝本自身の政策の一環として行ったこと、本件事業は、教育行政の教育内容に対する不当な介入にあたること、本件事業が正式な決定手続を経ていないことを知って本件事業を推進したのであり、故意または過失が存する。

    

第7 京都市に損害が発生すること

1  被告は、京都市に損害が発生していないとして損害賠償を否定する。

そして、損害に関する判例として熊本地裁昭和58年1月31日判決、京都地裁昭和59年9月18日判決、山形地裁昭和62年7月27日判決を挙げる。

 しかしこれらの判決は、職員から受けた労務自体は町にとって有用なものであったこと、調査報告書は、空港の立地可能性を判断する資料としては市にとって有用なものであったこと、私立中学の請負契約の結果、中学校校舎が建設され、それが現に中学校の校舎として使用されており請負契約の結果完成した物が市にとって有用であったことを前提としている。

 従って、損害の判断にあたっては、地方自治体にとってその公金支出が有用なものであったかどうかを具体的に判断して決すべきである。

 大阪高等裁判所平成8年1月25日判決(判例タイムズ909号124頁)も、君が代を録音したカセットテープの購入代金相当の損害の判断にあたって、カセットテープが京都市、教育委員会にとって有用であったか否かをその汎用性の点から具体的に検討をしており、この上記の判断の趣旨にそったものといえる。、

 

2  本件各支出についての検討

   これに対して、本件各支出に関しては京都市または教育委員会にとって

以下の通り有用なものとはいえず、上記に掲げた判例とはその前提が異なるため、いずれも損害が生ずるものである。

 

(1)本件事業を行うためのシステム構築及び運営準備業務の委託契約に基づく

公金支出  

    まず、本件事業自体が、違憲・違法なものであり、この事業を推進す

ることは許されなかったにもかかわらず被告は本件事業を行ったのである。本件事業が結局行われたからといって、本件事業自体が違法であったという事実は変わらず、被告は本来行ってはいけない本件事業を実施したものである。従って、本件事業及びこれに伴うシステム構築及び運営準備契約の履行は被告にとって有用な労務の提供ではない。従って、本件事業を行うためのシステム構築及び運営準備業務の委託契約に基づく公金支出により京都市には損害が生じている。

 

(2) 本件テキストブック購入費用

    また、本件事業の一環として本件テキストブックがつくられたのであ

るが、本件テキストブックは特定の歴史観に根ざした偏向した内容であること、また、誤りが多いことは、既に指摘したとおりである。このような本件テキストブックを小学生に配布するために購入することは、特定の歴史観及び誤った知識を小学生に流布する効果をもたらすのである。従って本件テキストブックの購入は被告にとって有用とはいえず、この費用支出によって京都市には損害が生じている。

また、通常、補助教材は有償であり、児童の父母が負担するべき性質

のものである。しかし、本件テキストブックは補助教材として小学生に無料で配布し、現に被告が所有しているのではないから、この意味でも京都市には損害が生じている。

 

(3)  「京都観光文化検定試験(公式テキストブック)」及び「第1回京都

観光検定問題と解説」購入代金について

    最後に、本件テキストブックの執筆の参考として使用したとされる「京

都観光文化検定試験(公式テキストブック)」及び「第1回京都観光検定問題と解説」購入代金について書籍については、そもそも、教育委員会が補助教材であるテキストブック作成に関与することは違法であるから、補助教材作成のための参考資料を持つことは有用なものとはいえない。

また、本件テキストブックが購入された平成17年9月16日段階で

は、本件テキストブックの原稿は完成しており、また本件書籍が納入された同年9月26日には翌日に最後の執筆者会議が開かれ、これ以降執筆者会議は開かれていない。従って、本件書籍が各執筆者の参考資料として使用することはできない。このように本件書籍は、本件テキストブック作成の参考資料として利用されることがなかった以上、本件書籍代金は京都市にとって有用とはいえないのである。また、一般的にも同一書籍を140冊も所持することが京都市にとって有用なものとはいえないことは当然である。従って、本件書籍代金を公金から支出することにより京都市に損害が生じている。

 

第8 被告第4準備書面に対する反論  

1 被告は同書面で、「本件テキストの執筆者の各教員から出された原稿」に

ついての文書送付嘱託につき、「本件テキストの内容そのものの適否とは無関係であり、かつ、ジュニア京都検定事業の違法性とは関係がない」として、その送付嘱託に異議を唱えている。

 

2 しかしながら、@まず第1に、本件テキストのための本来の執筆者教員の

元原稿が執筆者に無断で加筆修正され(著作権侵害にも相当し、手続的違法がある)、かつ、そのため本件テキストの内容が教育行政による「国家戦略としての『京都創生』」という教育内容への介入、「特定の歴史観の押しつけ」にねじ曲げられており(実体的違法)、元原稿と本件テキストの内容との間には密接な関連がある。

A第2に、「本件テキスト作成」と「本件ジュニア京都検定事業」は密接

不可分ないし包摂の関係にあり(本件テキストなければ本件検定事業なし)、かつ、本件テキスト作成の違法は本件ジュニア京都検定事業の違法の主要部分を占める点においても、両者の間には密接な関係がある。

 

3 本件テキストの内容そのものとの関連性(上記@)

(1)著作権侵害(手続的違法)

本件テキストの執筆者である教員92名の中から、担当執筆部分と本件

テキストの該当部分の内容が大きく異なり、外部執筆者(何者かは不明)が執筆者に無断で書き替え、修正を加えていることが指摘されている。

これは本件テキストの著作権者が誰かについて責任の所在をあいまいに

していることから生じているもので(乙2号証、奥書き)、後述のとおり、本件ジュニア京都検定事業の一連の手続において通常行われるべき「決定書」の不存在、京都市、市教委による教育行政の教育内容への介入の違法を意図的に隠蔽、責任を回避しようとする立場と軌を一にしている。

このような行政手続きの杜撰さがあるからこそ、次の(2)本件テキス

トの内容の杜撰さ、違法も出来しているのであって、密接に関連している(そして、その著作の違法な改変のプロセスによって、違法なテキスト内容の出現していることこそ解明されなければならない)。

(2)教育内容への介入(実体的違法)

京都市、及び市教委は上記手続的違法を行い、元原稿の修正を隠蔽し、

著作者の責任をあいまいにし、これを回避することによって、自己の政策課題とする「国家戦略としての『京都創生』」のイデオロギーを教育内容としての本件テキストの内容に介入した。

これはまさしく、教科とは別個に教育の中へ「特定の歴史観を押しつけ

」るものであり、教育基本法上も到底許されない。

(3)以上のとおり、本件テキストの執筆者の元原稿を法廷に提出させて、こ

れと本件テキストの内容を対比、検討させることは、本件テキスト作成の極めて特異で重大な違法性(著作権を侵害、ねじ曲げ、かつ特定のイデオロギー性の押しつけ)を判定する上でも、必要不可欠である。

 

4 本件ジュニア京都検定事業との関連性(上記A)

(1)密接不可分ないし包摂性

行政行為である本件ジュニア京都検定事業においては、

ア 企画・立案

イ テキストの作成

         ↓

ウ 検定テストの実施(毎年)

という手順を踏んで行われる。

その意味で、本件テキスト作成なくして、それ以後毎年繰り返される児

童に対する検定テストの実施はあり得ないのであって、本件テキストの作成は本件ジュニア検定事業と密接不可分ないしその中に包摂される関係にある。

(2)本件テキストの違法性

本件テキストの作成において、執筆者である社会科教員に無断で何者か

が原稿に手を加えて(手続的違法)、教科書基準を満たさないような、不適切、かつ誤った本件テキストを発行している。

しかも本件ジュニア検定事業の中核をなす本件テキストの執筆基準は被

告も認めているとおり、「国家戦略としての『京都創生』」の論理(特定のイデオロギー)であり、それは「特定の歴史観の押しつけ」にほかならない(実体的違法)。

(3)適正な手続(デュープロセス)の違反

行政行為には必ず予算の執行が伴い、その財政的裏付けは市民の税金で

賄われる。したがって、行政は税金の使途を明確にし、その責任の所在を明らかにする意味でも、適正な手続にしたがって、ガラス張りでなければならない。

本件ジュニア京都検定事業においては、「本件検定事業を実施し、ある

いは本件テキストの作成に協力すること等について、決定書による決定手続が行われておらず、事業の実施に係わる権限及び責任の所在、上記テキストブックの作成への協力に係わる合意事項等、重要な事実関係が明確に記録されていない事実があり、必要とされる措置が十分採られているとはいい難い状況にある」と異例の「付記」が本件監査委員によって指摘されている(甲2号証29頁)。

さらに、本件ジュニア京都検定事業の執行段階において、小学生児童に

対する授業及びテストの実施並びにそれが成績評価に関わるものとして、児童らの思想・良心の自由(憲法19条)の侵害ともなっている。

 

5 むすび

以上からすれば、本件テキスト執筆段階における手続的、実体的違法は、

本件テキスト作成の違法と密接な関連があり、かつ、そのような違法な本件テキストを不可避的に用いる違法な本件ジュニア京都検定事業と密接な関連がある。

よって、本件文書送付嘱託は、民主政のガラス張りであるべき行政手続に

おいて、本件の真相解明(本件テキスト作成の違法、本件ジュニア京都検定事業の違法)に必要不可欠であって、是非採用されるべきである。

 

 

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