京都市職員措置請求書　

１．請求の趣旨

桝本賴兼京都市長は、昨年11月、「歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定」の創設を発表した。そしてただちに、同「推進プロジェクト」を発足させ、本年５月末にはテキストブックを市内全小学校の４年生～６年生の子どもたち全員（約3万５千人）に配布した。

今後、学校の授業等でこのテキストを学習させ、11月には、市内の小学校５年生、６年生全員に、社会科等の授業時間を使って検定試験を受けさせると発表されている。（中学校も希望校は受験の対象となる。）

市教委によるテキスト作成・配布、さらにそのテキストを使って授業で教え、授業時間中に試験まで実施するというのであるから、これは子どもたちへの「強制」であり、許されない。

●「ジュニア日本文化検定」テキストの問題点

(1)まるで『新しい歴史教科書』の京都版　---内容には多くの問題

このテキストは、「歴史」に最も多くのページをさいているが、その内容は、現在、京都市の小・中学校の社会・歴史教科書と比べても相違する点が多く、まるで、『新しい歴史教科書』のような歴史記述となっている。

たとえば、各時代にわたって京都と天皇の結びつきが特に強調され、一揆などの民衆の動きや反乱等の説明はほとんどない。「伝統・文化」についても、ほとんどが天皇・貴族・武士等の視点からだけ語られている。また、近代の記述はほとんどなく、第２次世界大戦などにも全く触れていない。人権・平和に関する記述や史跡紹介もなく、教科書との違いで子どもたちは混乱してしまう。

　(2)特定の企業の名前をあげて本文で宣伝記事。また多くの広告も

「産業」の「世界に羽ばたく京都企業」というページには、10社ほどの会社の実名をあげ、褒め称えている。また、京都賞に関する「稲盛和夫さん」の記述内容など、企業人の個人礼賛にページを費やしている。さらに、本文中や末尾、裏表紙には、多くの企業の広告も掲載されている。このような、広告入り教材は、市教委でも初めてというが、教育の独立性を脅かすものである。

しかも、こうした本文中にあげる企業名について、なんと、市教委が事前に執筆者に指示したことも判明している。また、門川教育長は、多くの企業・団体に、テキストへの「協賛広告のお願い」というような文書も出している。

テキストの末尾には、寄付などの「支援をいただいた企業」として、７社の社名が、ひときわ大きな活字で掲載されているが、教材としては不適切である。

(3)伏見南部、山科、北部地域などが削除された折込地図。市長、教育長の顔写真、挨拶文

テキストには市内地図が折り込まれているが、この地図は、南は中書島で切れてしまっており、向島や淀は入っていない。また、東も山科の東半分は入っておらず、左京区や右京区の北部地域も除外されている。

京都の歴史や文化に、これらの地域は含まれていないということであろうか？　このような教材を、市内の小学校４～６年生全員に配布したのは、無神経としか言いようがない。

また、巻頭には、桝本市長や門川教育長の顔写真と挨拶文が掲載されているが、子どもたちに配る教材としては疑問である。

●「ジュニア日本文化検定」事業の問題点

(1)市長や京都の財界による教育への不当な介入であり、教育基本法・地教行法違反

　　この事業は、市長が定例記者会見で発表したことからも明らかなように、あくまでも京都市としての事業である。

しかし市長には、教育に関してこのような事業を行う職務権限はない。教育の一般行政からの独立は、戦後教育の最も重要な原則の一つであり、このような市長による教育への介入は、教育への「不当な支配」を禁止した教育基本法第10条、また、教育に関する市長の職務権限を定めた「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」（以下、「地教行法」）第24条に違反する。

また、この事業は、京都商工会議所の提案に市長が答えたものであるが、これも財界による教育への介入である。

(2)市教委による「教材」の作成は、教育基本法・地教行法違反

また、市教委には、今回のようなテキストを作成するような職務権限はない。教育行政の任務は、教育基本法第10条で、「諸条件の整備確立」に限られており、教育行政による教育の内的事項への介入も、同条１項が禁ずる「不当な支配」となる。

さらに、教材に関する教育委員会の職務権限は、地教行法第23条、33条で、教材の「取扱」や「届け出、承認」に限られており、教材の作成権限は含まれていない。教育行政が教材を作成できるというのなら、それは、「主たる教材」である教科書の国定化を認めることとなってしまい、戦前の国定教科書による教育内容の押しつけおよび統制の反省から生まれた戦後の教育制度そのものの否定につながるからである。

(3)事業の真の目的は「日本を愛する子どもたちの育成」---「新しい歴史教科書をつくる会」理事が委員長

京都市教委門川教育長は、５月30日の衆議院教育基本法特別委員会に教育基本法改正の立場の参考人として出席し、「『ジュニア日本文化検定』は、郷土を愛し、日本を愛する子どもたちの育成につながっていく」と明言した。また、「推進プロジェクト」が発行した「ジュニア京都検定通信」には、「日本人であることの誇りを取り戻すことが検定の目的」というような記述もある。さらに教育長は国会で、「京都の教育改革の取組は、今回提案されております改正案の内容と軌を一にするものであります」とも述べている。これは、現在の京都市教委の施策が、現行教育基本法には抵触していることを認めた発言でもある。

この事業は、京都市商工会議所が主催する「京都・観光文化検定（通称：「京都検定」）」のジュニア版とだといわれているが、「京都検定」が、単に「京都通度の認定」といった観光振興を目的としたものであるのとは異なり、子どもたちへの愛国心の育成を強調した政治的な狙いを持ったものである。

また、事業の実施主体である「推進プロジェクト」の委員長には、「新しい歴史教科書をつくる会」理事の市田ひろみ氏を就任させた。昨年の教科書採択にあたって、京都市では、『新しい歴史教科書』は市民の反対の声で採択されなかったが、そうした経過からも、「つくる会」理事を委員長としたのはきわめて不適切である。

(4)欠落した外国籍児童・生徒への配慮

京都市の公立学校には、大勢の外国籍やダブル（両親のどちらかが外国籍）の子どもたちも学んでいる。この子どもたちにもテキストが配られ、検定試験を受けさせられるのだが、そもそも「日本人であることの誇りを取り戻す」ための今回の事業は、外国籍の子どもたちの存在を全く無視したものである。

これは、「外国人教育は、人類普遍の原理である人権を確立し、すべての人々が民族や国籍の違いを認め、共に生き、共に発展していく社会を創造することを目指す」とした京都市教育委員会の「外国人教育指針」にも抵触するものである。

(5) 編集・発売にあたった会社との不可解な関係　

このテキストは、市教委が、京都市社会教育研究会の教員らに執筆を指示し、ほとんどの原稿をまとめたが、それを民間会社２社が校閲・編集し、発売した。しかし、市教委とこれらの民間会社との間には契約書もなく、編集・発売の条件をまとめた文書もない。また、出版の委託にあたって入札などの手続きもしていない。

出版社はこのテキストを５万部印刷し、一般の書店でも1,000円（税込）で販売されている。市教委は、そのうち3万８千部を１冊315円（税込）で購入したが、この価格設定は新刊書の再販制度との関係で問題がないのであろうか？

市教委からの原稿の無償提供、教育長による協賛広告の依頼文書発送、市教委による大量購入などによって、特定の会社にきわめて大きな利益を与える結果となっている。こうした特定の民間会社との関係は、自治体の業務としては、不適切である。

●違法・不当な公金支出

この事業に関する主な公金支出として、京都市・市教委は、昨年９月、京都商工会議所から書籍を341,000円で購入した。さらに、本年２月、システム構築及び運営準備業務委託費として3,528,000円を支出した。また、本年３月末には、テキスト購入費用として11,970,000円を支出している。

これらの公金支出は、違法・不当な公金支出であり、桝本京都市長、門川教育長、在田市教委総務部長、中永同総務課長らは、総額15,839,000円の損害賠償金を支払うこととの勧告を求める。（個々の損害賠償額については別紙参照）

２．請求者

住　所	職　業	氏　名	印

　以上、地方自治法第242条１項の規定により別紙事実証明書を添え必要な措置を請求する。併せて、同法第252条の43第１項の規定により、当該請求に係る監査について、監査委員の監査に代えて個別外部監査契約に基づく監査によることを求める。（その理由は別紙参照）

京都市監査委員様　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006年　７月２７日