京都市長　桝本�ｮ兼様　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2006年６月９日

京都市教育委員会教育長　門川大作様

 

「歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定」の中止を求める申入書　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「心の教育」はいらない！市民会議

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　代表　　林　功三

 

　桝本�ｮ兼京都市長は、昨年11月２日の定例記者会見で、「歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定（通称：「ジュニア京都検定」）」の創設を発表しました。そして11月10日には、同「推進プロジェクト」を発足させ、本年５月末にはそのテキストブックを市内の全小学校の４年生〜６年生の子どもたち全員（約3万３千人）に配布しました。さらに、この11月下旬には、市内の小学校５年生、６年生全員に検定試験を受験させるとしています。また、このテキストは、一般書店でも１冊千円で販売されはじめました。

　しかし、この「ジュニア京都検定」には、下記に述べるように多くの問題があります。以下、質問と申入れです。

 

１．目的は、「日本を愛する子どもたちの育成」

　　---推進プロジェクトの委員長は、「新しい歴史教科書をつくる会」理事

　まず、この「ジュニア京都検定」事業の目的が問題です。市長は、昨年の記者会見では、「京都をよりよいまちにしていこうという意欲や、次代に伝えていこうという気持ちをもった子どもたちを育む」ためと説明しました。

　ところが、５月30日の衆議院教育基本法特別委員会で、教育基本法改正の立場の参考人として発言した京都市教委門川教育長は、「『歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定』は、郷土を愛し、日本を愛する子どもたちの育成につながっていくと確信しています。」と明言しています。[1]

　また、「推進プロジェクト」が発行した「ジュニア京都検定通信　Vol.1」には、「京都は日本の心のふるさと。日本にいること、日本人であることの誇りを取り戻すことが検定の目的」というような意見も掲載されています。

　この事業は、京都市商工会議所が主催する「京都・観光文化検定（通称：「京都検定」）」のジュニア版とだといいますが、「京都検定」が、「京都通度の認定」といった観光振興を目的としたものであるのとは異なり、愛国心の育成を強調した政治的な狙いを持ったものなのです。

　こうした事業の目的は、事業の実施主体である「推進プロジェクト」の構成にもそのまま反映されています。この｢推進プロジェクト｣の委員長には、「新しい歴史教科書をつくる会」理事の市田ひろみ氏が就任しているのです。これも、露骨に政治的な狙いを持った人選と言わざるを得ません。

 

２．テキストの内容にも多くの問題　

---人権・平和に関する記述をいっさい排除

　テキストブックの内容にも多くの問題があります。

このテキストは、「歴史」に最も多くのページを割いていますが、その歴史の記述は、「天皇中心の国づくりをめざし」「天皇のおひざもと・京都」「近代国家の基礎を築いた明治天皇」などといった内容が続いています。明治以後の記述もほとんどなく、全体としてあきれるほど粗雑なものです。

　また、多くの史跡が紹介されていますが、たとえば「豊臣秀吉の天下統一」の項では、北野天満宮での大茶会や、醍醐寺での豪華な花見の宴の記述はあっても、秀吉の朝鮮進攻の「負」の史跡である耳塚などには全く触れていません。

他にも、清水寺の上人に最後まで尽くしたという「忠僕茶屋」や、上人を助けるために激しい拷問を受けながらも舌を噛み切って自殺して上人をかばったという「舌切り茶屋」などの逸話はあっても、被差別部落や在日朝鮮人問題など、京都の人権や平和、そして戦争などに関する史跡の記述はいっさいありません。意図的な選択と言わざるを得ません。

このテキストは、「新しい歴史教科書」の京都版ではないかという訴えも寄せられていますが、こうした内容を見るとそんな意見が出てくるのも当然です。

 

３．特定の企業を実名をあげて宣伝 

---こんなものを学校で配布するのか？

　また、テキストでは、「歴史」「文化」に続いて、「産業」の章となります。その「世界に羽ばたく京都企業」というページには、京セラ、オムロン、島津製作所、堀場製作所、任天堂、村田製作所、村田機械、ローム、ワコール、日本電産などの会社の実名をあげ、「ユニークで個性あふれる企業」「あふれるような力と情熱を持った創始者」「すぐれた品質の女性下着製造」「京都企業発の売上高１兆円を達成」「得意の技術で、特色あるたくさんの製品とサービスを提供」「世界の市場でトップにおどり出た」などと、それこそ歯の浮くような言葉で褒め称えているのです。

　また、末尾には11の会社の宣伝も掲載されています。こんなテキストを小学校４年生〜６年生全員に配布し、しかもその内容で検定試験をするというのですからあきれます。

さらにテキストの最後には、「ジュニア京都検定の趣旨に賛同されご支援いただいた企業」として、７つの会社が大きな活字であげられています。また、「このテキストブックの作成や検定の運営にあたっては、京都の多くの企業や団体の皆様の広告協賛・ご寄付をいただいております。」という謝辞が掲載されています。

４．折り込の市内地図で、向島や山科、北部地域を除外しているのは何故か？

　テキストの巻頭には市内地図が折りこまれています。ところが、この地図は、南は中書島で切れてしまっており、向島や淀などは入っていません。また東も山科の東半分は入っていません。左京区や右京区の北部も除外されています。

　こんなテキストを市教委が作成し、市内の全小学校の４年生〜６年生に配布しているのです。除外された地域の学校の子どもたちが、こんな地図を見てどう思うのか想像できなかったのでしょうか？　あまりに杜撰です。

５．一般行政による教育への介入は、教育基本法、地教行法違反

　また、この事業は、市長が定例記者会見で発表したようにあくまでも京都市としての事業です。昨年11月２日の広報資料も、「京都市」として出されています。京都市の事業を、教育委員会生涯学習部に事務局を担当させているのです。

　京都市長が提案した京都市としての事業なのに、多くの教員らがテキストの執筆に動員され、完成したテキストを市内の小学校４年生〜６年生全員に配布したのです。さらに、実施要項案では、11月下旬の平日の授業時間を使って、５年生〜６年生全員に検定試験を受けさせるというのです。

　市長は、教育委員会を、まるで市役所の一部局のように考えているようです。学校の子どもたちを、市長の思いつきのために動員することは許されません。

　京都市や京都市教委は、教育関連諸法規で定められた、教育行政の一般行政からの独立という大原則を無視しています。地方公共団体の長の職務権限は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律（以下、「地教行法」）第24条に明記された範囲に限られており、教育内容に介入することはできません。今回の市長の行為は、そもそも教育基本法第10条で強く禁じられている、教育への「不当な支配」です。

６．市教委が「教材」を作成したり検定試験をすることも、教育基本法、地教行法違反

　京都市や市教委が、「今回の事業は、京都市ではなく市教委の事業だ」と言い逃れたとしても、やはり今回の事業は違

法なもので許されません。

　教育行政の任務は、教育基本法第10条2項で、「諸条件の整備確立」に限られており、教育行政による教育の内的事

項への介入は、同条１項が禁ずる「不当な支配」となります。従って、市教委がテキストを作成したり、その内容の試験を実施することは許されないのは当然です。

　市教委が、このテキストは「教材」だと主張したとしても、地教行法第23条、33条で定められている教育委員会の権限は、教材の「取扱」や「届け出、承認」であって、教育行政による教材の作成権限は含まれていません。

このような行為が許されるのなら、教育行政は、どのような内容のものでも、「教科書ではない。教材だ」と称して子どもたちに押しつけることができることになります。「主たる教材」である教科書の検定制度においては、国家は申請された教科書を「検定」するのであって、教科書の「執筆・作成」ではありません。この検定制度の基本原則は、「主たる教材」以外の副教材においても同様です。教育行政が教材を作成できるというのなら、それは、「主たる教材」である教科書の国定化を認めることとなってしまい、戦前の国定教科書による教育内容の押しつけおよび統制の反省から生まれた戦後の教育制度そのものの否定につながるからです。

それに、今回は、配布したテキストの内容で試験をするというのですから、これはもう「教材」ではなく、「教科書」としての扱いであり、認められません。

７．子どもたちは、検定試験の受験を強制されるのか？

　先にも述べたように、11月下旬に、市内の全小学校の５年生〜６年生が、このテキストの内容についての検定試験を受験することになっています。試験は、平日の社会科や総合学習の授業時間を使って実施されます。

　我々の質問に対して市教委担当課の課長は、「受験は強制ではない」と言っていますが、平日の授業時間を費やして試験をするのですから、子どもたちがそれを拒否することは事実上不可能なことは明らかです。また、これから秋の試験まで、学校の授業中にテキストを使った指導や、夏休み期間中に補習なども予定されています。

　公教育の場を、このような市長の思いつきのために使ってもよいのでしょうか？

 

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その他、市教委と、テキストの編集、販売を担当した民間会社との関係など、疑問な点はまだまだあります。

これらについては、現在、行っている公文書公開請求の結果等をみて、再度、質問・申入れをさせていただきます。