京都新聞社説 2009年9月19日 

「TM逆転判決 ルール逸脱に反省促す」


 小泉政権下の2005年11月に内閣府と京都市が開いた「文化力親子タウンミーティング(TM)イン京都」の参加者抽選をめぐる訴訟の控訴審で、大阪高裁は抽選の不正を認め、原告勝訴の逆転判決を言い渡した。

 一審の京都地裁は、控訴審とほぼ同様の事実経緯を認定しながら「憲法などの法的保護に値しない」として原告の損害賠償請求を却下していた。だが、控訴審は国と市に対して「公務員の職務義務に反し、違法」との判断を示した。妥当な判決と言えよう。

 「国民との直接対話」を掲げTMは本来、市民の意見に耳を傾ける場であったはずだ。国や市が抽選方法を操作して特定の出席希望者を排除したことは、公平であるべき住民参加の機会を奪い、民主主義のルールに反する悪質な行為と言うほかない。

 国と市は控訴審判決を真摯(しんし)に受止めるべきだ。

TMは小泉内閣発足直後の01年6月から始まり、全国各地で174回開かれた。教育改革や司法制度改革など内閣の重要課題について国民から広く意見を聞き、内閣と国民の対話を促進するのが目的だった。

 ところが、06年11月、出席者に政府の意に沿った発言を依頼した「やらせ質問」などが発覚し、内閣府が設けたTM調査委員会の報告書で京都市に絡む不正抽選も明るみに出た。

 高裁は、市教育委員会が大学職員の原告ら2人を「抗議活動などのトラブルを起こす可能性がある」として内閣府に落選するよう求め、内閣府が2人の応募番号の下1けたを落選番号に決めたーと認定した。

 作為的に落選させた上、「抽選で落選」と虚偽の通知をしたのは国家賠償法上の違法行為に当たる判断。請求棄却の一審判決を変更し、国と市が連帯して巻き添えで落選した1人を含む3人に計15万円を支払うよう命じた。

 一審判決は、不正抽選を明確に認めながら「混乱を避けるためで、不合理とはいえない」などとして違法性を認めなかった。これでは、TMを国への意見表明の機会と信じた市民の思いとはかけ離れた判断とも言えた。

 主催者の国と市が過剰にトラブルを恐れるあまり、不正な手段を講じたとみてよい。好ましくない意見を主張する可能性のある市民を危険視する行為でもある。「円滑な運営」「安全確保」を優先したとはいえ、言論の自由を脅かしかねない。

 控訴審判決は、原告側が「意図的に参加を拒まれ、憲法が保障する表現の自由を侵害された」と訴えたにもかかわらず、憲法判断には踏み込まなかった。それでも、高裁が不正抽選の違法性を認め、国や市の行為を戒めた意義は大きい。自民党政権当時の問題とはいえ、新政権も肝に銘じてほしい。

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