京都市教育委員会 教育委員長 藤原勝紀様

京都市教育委員会 教育長   高桑三男様          2010年2月24日

 

 

                 申 入 書

 

京都市教育委員会は、2009年10月22日の会議で、それまで市内3区に設定されていた教科書採択地区を1地区に変更するよう京都府教育委員会に要望することを決定しました。それを受けて京都府教育委員会は、京都市の採択地区を1地区に変更することを議決し、同年11月24日の京都府広報に掲載されました。

 今回の京都市教委の採択地区全市1地区化への変更は、下記のように、法的にも、手続き的にも、多くの問題を含んでおり、京都市民として、とても看過できるものではありません。

 

1.「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」では、指定都市においては、全 市を1採択地区とするのではなく、複数の採択地区とするよう求めています(注1)。

  また、1997年3月26日の閣議でも、「将来的には学校単位の採択に向けて検討」「 (当面の措置として)現行の採択地区の小規模化」等が決議されています(注2)。そして 、文部科学省も、各都道府県教育委員会に、「教科書採択地区の小規模化」を求める通知を 出しているのです(注3)。

  今回の京都市教委の採択地区全市1地区化への変更は、こうした法律や、閣議決定、文部 科学省通知等を真っ向から否定するものです。

 

2.また、特に問題となるのは、今回の変更手続きの問題です。

 まず、この、採択地区変更を決定した教育委員会の会議に提出された、事務局からの説明 資料には、上記の法的な問題や閣議決定等の事実について、全く触れていません。当日の議 事録を見ても、事務局説明の中にこの問題は入っていません。各教育委員は、こうした法的 問題について認識されていないまま、全市1地区化に変更することを決定されたのではない でしょうか。

 また、教科書採択地区の変更は、きわめて重要な問題ですが、事務局は、事前に教員・市 民等の関係者の意見を全く聞かないまま、教育委員会の会議に提案したのです。これは、上 記の閣議決定でも、「より多くの教員の意見が反映されるよう」とされていることにも抵触 します。

 さらに、昨年10月22日の教育委員会議に際して、事前の市教委ホームページの開催通 知には、こうした議題があることは全く書かれておらず、当日も傍聴者がゼロのまま、議決 されてしまったのです。その直前の教育委員会会議は、私たちも傍聴していたのですが、そ こでも、次回の会議で、採択地区の変更について協議するとは報告されていません。市民も 、教員らも、誰も知らないまま、密室の中で、採択地区1地区化が決定されてしまったので す。

 

3.私たちは、2005年の教科書採択の際も、教育委員会に要望書を提出し、そこで、上記 閣議決定等も引用し、教科書採択にあたっては、現場教員の意見が一層重視されるよう配慮 されたいとお願いしました。今回の全市1地区化は、教科書採択にあたって、個々の教員の 意見を反映させなくするものです。

  たとえば、現行の教科書採択システムにおいては、教員、学識経験者、保護者から構成さ れる「教科書選定委員会」の答申をふまえて採択を行うこととなっていますが、これまで小 学校、中学校ともに、3区で計150名近くにのぼった教科書選定委員は今回の変更により 3分の1近くに減らされることになります。そのことはとりもなおさず、教育の専門家たる 現場教員、さらに学識経験者や保護者の意見が採択において反映されにくくなることを意味 します。これは、京都市教育委員会のホームページにも記されている「開かれた教科書採択 」という主旨に反するものです。

 

4.今回、京都市が採択区を変更する直前、横浜市も、それまでの18地区を全市1地区に変 更しました。横浜市では、昨年、8地区で自由社の「新しい歴史教科書」が採択され、その 直後の採択地区の統合は、次回の採択をにらんだものだとして、大きな問題となりました。 また、現在、「新しい歴史教科書」をつくる会の藤岡信勝氏らも、採択地区の変更を呼び掛 けています。そうした動きの中で、今回、京都市が採択地区の全市1地区化を強行されたこ とは何らかの関連があるのではないかと、私たちは危惧しています。

 

 以上、説明しましたように、今回の採択地区全市1地区への変更は、法的にも、手続き的にも、大きな問題があり、私たちは、決して認めることができません。京都市教育委員会が、今回の決定を見直し、従来の3採択地区に戻されるよう申入れます。

この申し入れに対し、教育委員の方々と私たちとの話し合いの場をもっていただくよう要請します。

ご多忙中、申し訳ありませんが、3月10日までに文書でご回答ください。

 

 

  2010年2月24日 

 「心の教育」はいらない!市民会議

              中京区寺町二条 若林ビル3F

 

 

 

 

(注1)義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律

    第12条(採択地区)

        都道府県の教育委員会は、当該都道府県の区域について、市若しくは郡の区域又はこれらの区域をあわせた地域に、教科用図書採択地区を設定しなければならない。

     2  都道府県の教育委員会は、採択地区を設定し、又は変更しようとするときは、あらかじめ市町村の教育委員会の意見をきかなければならない。

    第16条(指定都市に関する特例)

       指定都市については、当該指定都市を包括する都道府県の教育委員会は、第12条1項の規定にかかわらず、指定都市の区の区域又はその区域をあわせた地域に、採択地区を設定しなければならない

 

(注2)閣議決定「規制緩和推進計画の再改訂について」(1997年3月26日)

     「11 教育関係

      (1)初等中等教育

       J教科書の採択制度

       [措置内容]

将来的には学校単位の採択の実現に向けて検討していく必要があるとの観点に立ち、当面の措置として、教科書採択の調査研究により多くの教員の意向が反映されるよう現行の採択地区の小規模化や採択方法の工夫改善についての都道府県の取組を促す。」

 

 (注3)文部科学省から各都道府県教育委員会委員長あての通知「教科書採択の改善について」(1997.9.11

     「公立小・中学校における教科書採択については、行政改革委員会「規制緩和の推進に関する意見(第2次)」(1996.12.16)においても、別添2のとおり提言されています。

各都道府県教育委員会におかれては、---行政改革委員会の意見の趣旨を踏まえ、地域の実情に応じ、教科書採択地区の小規模化や採択方法の工夫改善など教科書採択の在り方の改善に引き続き努められるとともに、併せて貴管下の市町村教育委員会に対しても周知徹底を図り、同様の改善方を指導されるようお願いします。」

 

    <別添2>行政改革委員会「規制緩和の推進に関する意見(第2次)」(1996.12.16

      「現在においても、私立の小・中学校においては、各学校の教育課程に合わせて学校単位で採択が行なわれている。公立学校においても学校単位で自らの教育課程に合わせて教科書を採択する意義をより重視すべきであり、将来的には学校単位の採択の実現に向けて検討していく必要がある。」

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